2003年10月27日

塚崎 公義
デフレは終わった



消費者物価指数(生鮮食品を除くベース、以下同様)は、前年同月比でみるとマイナスが続いていますが、季節調整値で見るとすでに底を打っていて、昨年10月以降は下がっていないばかりか、最近ではわずかながら上昇しはじめています( 図1)。このことは、デフレがすでに終了していることを意味するものです。

図1 消費者物価指数(生鮮食品を除くベース)の季節調整値

同指数は、前年同月比で見ても近々マイナスを脱する可能性が高まっています。今年8月の季節調整値が昨年9月よりも高かったことを考えると、「今月末に発表される9月の値が8月と同じ水準であれば前年同月比がプラスになる」ということになるからです。遅くとも、10月の物価が発表になる来月下旬には「前年比がマイナスを脱した」というニュースが流れる可能性が高いといえるでしょう。

もちろん、「それだけでデフレが終わったと考えるわけにはいかない」という意見もあるでしょう。「医療費の自己負担増にともなう値上がり、タバコ税の増税などの特殊要因が消費者物価を0.2%以上押し上げているので、これを除けば消費者物価の前年比は実力ベースでみてプラスであるとは言えない」「GDPデフレーターがマイナスであるうちはデフレが克服されたとは言えない」といった考え方にも確かに一理はあるでしょう。

しかし、それでもなお消費者物価指数のマイナス幅が徐々に縮小して、ついにマイナスを脱するということの意味は大きいと考えるべきでしょう。景気も物価も、大きな流れが転換すれば、しばらくは新しい流れに沿った動きが続くのが普通です。したがって、消費者物価の前年比がプラスに転じたならば、時を経ずに(早ければ10月分の消費者物価において)特殊要因を除いたベースでも前年比がプラスになるでしょうし、GDPデフレーターもいつかはプラスに転じると期待されます。

こうした動きは、病人の回復過程に喩えることができるでしょう。入院患者の病状が進行していたのが一昨年、体内に抗体ができはじめ、病状の進行が止まったのが昨年の10月、その後少しずつ回復しはじめたため、早ければ今月末にも退院するというイメージです。「今でも薬に頼っているので健康とは呼べない」「会社を休んでいる間は病人だ」といった評価は当然あり得るでしょうが、それでも退院という事実は人々に事態の改善を印象づけますし、なによりも今後について「無理をせずに養生を続ければ、次第に健康を回復していくだろう」という方向性が感じ取れることが大きいというべきでしょう。

デフレを脱した最大の原因は、景気が回復しはじめたことです。構造改革が景気にやさしい方向に軌道修正されたこと、構造改革の痛みなどをおそれて財布の紐を締めていた消費者が少しずつ戻ってきたこと、企業収益が好調で設備投資が少しずつ出始めたこと、などが景気を回復させているわけです。加えて、賃金が下げ止まったことも、企業のコストの下げ止まりを通じて値下げ圧力を緩和する方向に働いていると言えるでしょう。

「デフレは貨幣的な現象だから金融の量的緩和によって解決できる」という説もありましたが、量的緩和がマネーサプライの増加につながらなかったことを考えると、結果として貨幣数量説的な(マネーサプライの増加が物価を押し上げるといった)経路は通らなかったように思われます。

さて、今後の物価動向については、景気の回復につれて緩やかに上昇していくと考えられます。病み上がりの病人ですから、小さなショックでもデフレが再発してしまう可能性はあるのですが、景気が底堅く推移すると見込まれることから、実際にはそうした可能性は大きくないだろうと考えています。

景気については、すでに病み上がりの脆弱さが和らぎつつあり、今後も緩やかな回復を続けていく可能性が高いと思われます。小泉改革が景気の腰を折る可能性は小さくなりましたし、米国景気の失速も当面見込まれませんから、急激な円高が進まない限りは景気の腰折れは考えにくいと思います。

為替相場の予測は大変難しいものですが、かりに円高が110円近辺で止まってくれれば、円高がデフレを再発させるリスクも大きくはないでしょう。景気が底堅いかぎり、一時的な輸入物価の下落はあったとしても、それが物価の下落→賃金の下落→物価の更なる下落といったスパイラルにつながることは考えにくいからです。

最後に、頭の体操の材料として、私の友人が唱えている見解を御紹介しておきましょう。それは、「日本の成長率がG5の中で一番高く(図2)、インフレ率が一番低い。これは日本の経済がいちばん望ましい状態にあるということである。日本がデフレであるか否かを論じているような場合ではない。7−9月期の成長率は日本の冷夏と米国の減税などによって一時的に逆転するであろうが、その後ふたたび日本の方が高くなるのではないか」というものです。

図2 日本の成長率はG5で一番高い

現段階でここまで踏み込むのはまことに時期尚早と言えるでしょうし、「常識から全くかけはなれていて検討に値しない」と切り捨てることは簡単です。しかし、理屈で論破しようとすると、意外に難しいものがあるように思いますが、いかがでしょうか。





以 上

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