2003年11月05日

塚崎 公義
米国経済の好調は一時的


GDPは特殊要因

米国の7−9月期の実質GDPは前期比年率で7.2%の高い成長となりました。7−9月に関しては、すでに好調な数字が数多く発表されていましたから、今回のGDPは予想の範囲内であったと言えるでしょう。米国では今次発表が「経済は順調な回復軌道に乗っており、来年にかけて潜在成長率を上回る成長が見込まれる」といった強気の見方を裏打ちするものと捉えられているようです。

しかし、7−9月期の成長率は特殊要因から高くなっているだけで、米国経済の基調が変化したわけではないことに留意する必要があるでしょう。特殊要因の第一は、減税の小切手が送られたことです。金額的にはそれほど大きくはありませんでしたが、消費性向の比較的高い層への減税であったことなどを考えると、全体の成長率に与えた影響は比較的大きかったように思います。特殊要因の第二は、5〜6月に長期金利が一時的に低下したことの影響が出ていることです。住宅ローン金利が低下したことで、住宅着工が増えましたし、住宅ローンの借り換え、借り増しによって消費をした人も多かったようです。

10−12月期以降は、こうした特殊要因が剥落します。減税は断続的に実施されますが、前期比での成長率を考える上ではプラスの寄与は見込みにくいでしょう。長期金利はその後反転上昇していますから、前期比で見た住宅着工や消費にはマイナスの影響が出るものと思われます。

雇用情勢の悪化が止まったことから消費が増えるという見方もあるようですが、雇用の基調は依然として弱く、「これだけ一時的な好材料があっても雇用はこの程度しか増加しない」と考えておいた方がよいのではないでしょうか。


バブルの後遺症

少し大きな視野で眺めると、4−6月までの米国経済はバブルの後遺症によって低迷していました。経済の底流では景気の悪化が続いており、本来であれば深刻な需要不足に陥るはずのところを、懸命の金融緩和と財政赤字拡大で下支えしていたというわけです。

それがある日突然順調な回復過程にはいったということは考えにくいと思います。景気というものは、一度悪化しはじめると、雇用減→所得減→消費減→生産減→雇用減といったスパイラル的な力がはたらくため、これを打ち消すような相当大きな力が外部から働かない限り、悪化を続ける可能性が強いからです。金融緩和のペースはここにきて鈍っていますし(緩和余地が減っているので仕方がありませんが)、減税の小切手は送付されたものの、景気全体の流れを変えるほどのインパクトを持った金額とは到底言えないでしょう。ドル安の効果はある程度見込まれるのでしょうが、米国経済にとってドル安の景気刺激効果はそれほど大きくないという見方もあり、景気を転換させる効果があるか否かは疑問です。

米国経済が再び後退局面にはいるとは限りませんが、仮に回復を続けたとしても緩やかなペースにとどまるものと思われます。住宅投資は現在大変な高水準にあり、今後これが増加していく余地はほとんどありません。むしろ、景気が回復をはじめれば、長期金利が上昇し、住宅投資にはマイナスに働く可能性もあるでしょう。

個人消費も、現在の貯蓄率が低水準であることを考えると、「伸びきった状態」にあって、今後さらに消費が景気回復を牽引していくと考えるわけにはいかないでしょう。

設備投資も、設備稼働率の低さやオフィスビル空室率の高さを考えると、景気を牽引する力とはならないでしょう。IT関連では、ITバブル期の設備が旧式となって更新投資が必要なものも出始める時期ですが、それ以外の設備投資は盛り上がりに欠ける状況が続くと見ておいたほうがよいと思います。

来年は大統領選挙の年ですから、ぜひとも景気回復を加速させて雇用を増やそうという政策が採られることになるでしょう。それでも実質GDPの伸びが労働生産性の伸びを上回って雇用が回復してくるか否か、楽観は許さないと思います。

米国の景気が急回復すれば、日本の輸出も増えますし、米国からの円高圧力(選挙対策のリップサービスを含む)も和らぎますから、日本にとっては大変ありがたいことですが、あまり楽観しない方がよいように思います。

最後に余談ですが、ITバブルの頃も、ITバブルが崩壊した後も、米国人の平均値が米国経済を強気に見ている一方で日本人の平均値は米国経済にそれほど強気でなかったように思います。バブルを経験している人とそうでない人の違いであるとすれば、過去数年間は経験が役立ったのでしょう、日本人の方が当たっていました。

「米国経済の予測をするならば米国へ出張しなければ」という考え方は一面では正しいのですが、米国が経験したことのない「バブル後不況」といった状況においては、日本の経験を踏まえて一歩はなれたところから客観的かつ冷静にものを見ている方が、傍目八目的に当たる場合も多いということかもしれません。

少なくとも、これまで数年間に起きてきたことが、今回に限って起きないと考えるには、それなりの理由が必要でしょう。特段の理由がないのであれば、これまでどおり日本人の平均値の方があたりそうだと考えて、米国経済の先行きに慎重な見方をしておいた方が無難な気もしますが、いかがでしょうか。





以 上

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