2004年01月23日

塚崎 公義
中国の時代?


 中国経済が、2003年に9.1%という高い成長率を記録して話題になっています。アジアの通貨危機にも米国のITバブル崩壊にも負けなかった中国経済は、自国のSARSさえも難なく乗り越えたというわけです。

 中国経済は、最近まで世界的デフレの元凶だと言われていましたが、今では一次産品価格高騰の主因だと言われるなど、良くも悪くも世界経済における注目度が飛躍的に高まりつつあります。この勢いで中国が成長を続けるとすると、(GDPこそ今のところ米国の10%強にとどまっていますが)物量ベースでの経済規模が巨大なだけに、世界経済に与える影響の大きさは米国と肩を並べるようになるかもしれません。日本にとっては隣国が巨大になれば、計り知れない影響を受けることになるでしょう。

 中国経済については楽観論と悲観論が飛び交っていますが、日本経済との対比で考えると、「短期的な景気後退はあるかもしれないが、中期的には高成長が持続する」と思われます。日本の高度成長期よりも恵まれた状況にあるからです。

 日本は、高度成長期の前半は外貨不足に悩みましたが、中国は巨額の貿易黒字を稼いでいて外貨準備が急激に積み上がっています。日本は、高度成長期の後半は労働力不足に悩みましたが、中国には無尽蔵な労働力が存在しており、必要な労働力はいくらでも農村から調達してくることができます。

 日本の高度成長期は外国からの直接投資がほとんどありませんでしたが、中国には先進国から巨額の直接投資が流入しています。直接投資は資金のみならず、技術も持ち込んでくれますし、多くの場合には本国向けの輸出を目的とした進出ですから、販路さえも持ち込んでくれるわけで、経済を外資に握られることさえ厭わなければ(外資の経済支配が中華思想と両立するのであれば)、成長の強力なエンジンとして機能するはずです。

 日本の高度成長が終了した直接の契機(主因とは言えませんが)は石油ショックでしたが、中国は当時の日本ほど海外のエネルギーに依存しているわけでもありません。

 日本の高度成長期が終了した真の原因は需要の伸びの鈍化でした。高度成長期の後半には日本人がそこそこ豊かになって「絶対欲しいもの」は手に入れたので、その後は「出来れば欲しいというものはあるが、我慢して貯金しよう」という人が増えてきたわけです。一方中国では、まだまだ多くの消費者が貧しく、「絶対欲しい」と思っているものも買えていない段階ですから、「消費が飽和する」などということはまったく考えられない状況です。

 こうしてみると、中国の高度成長を制約する明確な要因は見当たりません。需要面か供給面のいずれかに決定的な制約があれば別ですが、そうでない以上、現在続いている成長が「自発的に終了する」とは考えにくく、成長を抑制する何らかの力が加わるまでは成長が続くと考えるべきではないでしょうか。

 懸念材料は数多く指摘されていますが、長期的な成長の持続を決定的に制約するようなものは見当たりません。たとえば「過剰投資が過剰生産によるデフレをもたらしている」という問題点と「電力不足などが深刻である」という問題点が同時に指摘されていますが、需要も供給も急速に増加していくなかで、各品目の需要と供給がズレることは当然ありうることです。需要が不足している部分はそのうち供給が増えるでしょうし、供給超過の部分についても(日本のように需要不足の国では深刻な問題となり得るでしょうが)需要が急速に伸びている中国のことですから、時が解決してくれることでしょう。

 金融緩和の影響から、過剰な設備投資が行われているという指摘や、一部地域では不動産投機によってマンションなどが極端に値上がりしているという指摘もありますが、日本のバブル期ほどの広がりを持っているわけではありませんし、仮にバブル潰しの引き締めが行われたとしても、需要不足経済である日本におい経済が長期的に停滞したようなことは起きず、引き締めの終了とともに経済が再び力強く成長していく可能性が強いでしょう。実際、93年から94年にかけての投資過熱とインフレも、経済を失速させることなく乗り切っているわけです。

 「現在の成長は投資主導であって消費の伸びが鈍いので心配だ」という人もいますが、消費も前年比で9%伸びているわけであって、日本経済において「消費の伸びが鈍い」というのとは決定的に異なるということには充分留意が必要だと言えるでしょう。

 国有銀行の不良債権問題を懸念する見方もありますが、これは銀行の金融仲介機能の問題ではなく、財政赤字で補填すればよい問題ですから、金融面での混乱は心配ないでしょう。「そもそも国有企業が過大な従業員を雇っているのは、本来政府が払う失業保険を国有企業が代わりに払っている面も大きい。したがって、赤字の国有企業が借金をかえせなくなり、国有銀行の不良債権問題が深刻化したとしても、その分のツケを政府が払うことは当然である」と考えれば、不良債権の処理コストを国が補填することは、ある意味では合理的だからです。

 20兆円といわれる国有銀行の不良債権がすべて財政赤字に振り変わったとすれば、財政状況は一時的に悪化するでしょうが、これも名目GDPが急激に増加していくなかにあっては、「国債発行残高の名目GDP比」が時とともに低下していき、いつの間にか解決されていくことでしょう。

 役人の腐敗、民間部門の脱税などがまかり通っていることが気になりますが、これも方向としては改善の方向にあるようですから、「腐敗などがあっても今まで成長してこれたのだから、腐敗などのせいで今後成長できなくなると考える理由はない」でしょう。

 貧富の差が広がっていることも、政治的には問題でしょうが、経済の発展を阻害する要因としては重要とは言えないでしょう。

 以上、マクロ経済面から見て中期的な視点に立った場合には楽観できるということを述べてきました。「短期的には不況に陥っても、需要が伸びていけば時間とともに解決する。そこが需要不足の日本経済との根本的な違いだ」ということです。

 注目されるのは、悲観論を述べる人であっても中国経済の成長率見通しを聞くと「5%程度に減速する可能性がある」といった数字を挙げる場合が多いことです。この程度であれば「中期的に見た高度成長期の中の小さな一休み」といったところでしょうから、結局悲観論者と言えども中国が中期的に発展していくことは否定していないということになるのでしょう。

 そうだとすると、これからは中国の時代ということになるのでしょうか。少なくとも当分の間は巨大な隣国から目が離せそうにありません。





以 上

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