2004年05月28日

塚崎 公義
日米の景況感格差


 最近の米国の経済指標は好調なものが多く、景気が順調に拡大していることを示しています。 これを受けて、米国人エコノミストたちは米国経済の先行きに楽観的になっていますが、日本人の中には米国経済の先行きを慎重に見ている人が少なくありません。 減税による景気刺激がピークを超えたこと、長期金利や原油価格の上昇がタイムラグを経て景気を下押ししかねないこと、などが慎重論の理由となっているようです。

 一方、日本の経済指標にも好調なものが多く、景気が順調に拡大していることを示しています。 経済成長率は日本の方が高く(今年1−3月期の実質GDPの前年比は日本が5.4%、米国が5.0%)、鉱工業生産も設備投資も日本の方が高い伸びを示しています。 加えて、米国に見られるような懸念材料が日本にはあまりありません。 それにもかかわらず、日本人エコノミストは日本経済の先行きにそれほど楽観的ではないようです。 むしろ海外のエコノミストや投資家の方が日本経済の先行きを明るく見ているように思われます。

 こうした見方の差が生じている理由はいくつか考えられます。 第一は、米国の長期好況と日本の長期不況の「後遺症」でしょう。 米国では、長期にわたる好況によって弱気派エコノミストが排除されてしまった(あるいは強気派に転向した)ため、表舞台には強気派のエコノミストしか残っていないのでしょう。 反対に日本では、日本経済に関する弱気派エコノミストしか生き残っていないのでしょう。 そうだとすると、「エコノミストの予測の平均」にバイアスがかかっているということになります。

 米国人エコノミストたちは、ここ数年、米国経済の見方が強気すぎて失敗してきました。 ITバブル期には「永遠の繁栄」を謳い、ITバブル崩壊後には「V字型回復」を主張していました。 こうしたことも、弱気派エコノミストが排除されてしまった結果だと考えれば容易に理解できます。 そうだとすれば、今回も「エコノミストの予測の平均」は強気すぎる可能性が高いのではないでしょうか。 「米国の経済について知りたかったら米国に出張してエコノミストの話を聞け」ということは、一般論としては正しいのでしょうが、ここしばらくは当てはまらないのかもしれませんね。

 見方の差が生じている第二の理由としては、日本人の心理が大きな振り子のように「バブル期に傲慢に振れ過ぎ、その反動でバブルの崩壊後に卑屈に振れ過ぎた」ことが挙げられます。 最近振り子がようやく戻りはじめていますが、まだ完全には戻り切っていないために、日本人が日本経済にどうしても弱気になるということのようです。 バブル期には「日本経済は世界一だ」と信じていたものが、バブル崩壊後は「日本経済がよくなるはずがない。構造問題を抱えているし、グローバルスタンダードではないからね」といったことが信じられていました。 「構造問題を抱えていても景気は回復できる」ということも、「グローバルスタンダードが絶対ではない」ということも、次第にわかってきましたが、なぜか「日本経済がよくなるはずがない」というところは今でも広く信じられている(脳の奥深くに刷り込まれてしまっている?)ということのようです。 米国については反対に「米国経済が悪くなるはずがない」といった刷り込みがなされているのかもしれませんね。

 第三の理由として、国民性の違いもある程度は影響はしていると思います。 米国人は、「わざわざハイリスクハイリターンを求めて大西洋を渡ってきた人々」ですから、先行きについても楽観的な見方をする人が多いのでしょう。 祟りを恐れながらも同じ土地にしがみついてきた日本人とは、物事の見方に本質的な違いがあるのかもしれません。

 筆者は、かねてより「日米逆転」を唱えていますが(たとえばAnalyst FP Net 2月2日)、なかなか賛同を得られるに至っていません。 しかし、これは、筆者の見通しが的外れであることに起因しているのではなく、他の人々に上記のようなバイアスがかかっているからかもしれません。 そうだとすれば、もしかして筆者の少数意見が結局は的中するのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

(補足)
 原油価格の上昇は、産油国による「増税」ですから、景気に悪影響を及ぼします。 第一に、企業が価格に転嫁できなければ企業収益が悪化しますし、転嫁できれば消費者の購買力が落ちるでしょう。

 しかし、景気にとって更に深刻なのは、中央銀行がインフレを懸念して金利を引き上げて、景気を故意に抑制しようとすることです。 米国においては、すでにFRBが利上げに向けての地ならしを行っていますが、その一因には消費者物価の上昇があるわけです。 一方で、日本ではようやくデフレが終わったか否かといった段階にあり、現状程度の原油価格上昇では到底利上げは行われないでしょう。

 これは、原油価格上昇の景気抑制効果が米国で大きく日本では相対的に小さいということを意味しています。 本文中で、米国では原油価格上昇を景気の懸念材料としましたが、日本では特段の懸念材料としなかったのは、こうした理由によるものです。





以 上

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