2004年08月02日

塚崎 公義
中国発のリスクについて



〔はじめに〕
 日本経済はあいかわらず好調に推移しています。こうなるとリスクが気になります。米国経済の減速に起因するリスクは6月に論じましたから、今回は中国の引締めに起因するリスクについて考えてみましょう。


〔 リスクシナリオ 〕
 中国政府は、経済の過熱に対応すべく、引締めを行なっています。これが一定の成果を上げつつあり、一部に沈静化の兆しが現れているようですが、ちょうど望ましい程度に減速するとは限らないため、「引締めが足りずにバブルが拡大を続けてしまう」という心配をする人と、「引締めが行き過ぎて景気が失速してしまう」という心配をする人がいます。
 引締めが足りない場合は、将来的なバブル崩壊のリスクはともかく、短期的には日本経済にとってプラスでしょうから、ここでは論じないこととして、景気が失速してしまう場合について考えてみましょう。
 中国の輸入は異常ともいえる伸び率を示してきましたが、その一因は「中国では、需要が急激に増加していて供給が追いつかないため、差額分として輸入が増えている」ということでしょう。こうした中で中国の需要の伸びが鈍化すると、供給が需要に追いついてきて輸入が急減するリスクがあるでしょう。投資の伸びが鈍れば、日本製の設備機械なども大きな影響を受けかねません。


〔 中国は失速せず 〕
 もっとも、それほど心配する必要はないでしょう。第一に、中国の内需が急激に落ち込む可能性は小さいからです。中国のバブル的な現象は、国全体としてではなく、部分的に生じているため、政府の抑制策もその部分に集中して行なわれています。たとえば小規模で非効率な製鉄所がいたるところで建設されている状況に対しては抑制策が採られていますが、同じ建設投資であっても発電所に関しては、電力不足を解消するために積極的な投資が奨励されています。先進国では市場メカニズムを重視するために、部分的なバブルを潰すことが難しく、下手をすると財政金融政策によって景気全体を悪化させてしまうことになるわけですが、中国の場合には幸か不幸か市場メカニズムが充分機能していないために、当局が強権で患部を狙い撃ちすることが出来るというわけです。
 中国が地方分権の国だということも、幸か不幸か内需の急激な落ち込みを防ぐでしょう。中国の地方分権の程度は、江戸時代の日本をイメージすればよいと言われるほどで、中央政府と地方政府の関係は「上に政策あれば下に対策あり」だと言われているようです。こうした状況下、各地方政府は「自分の領地内では積極的に投資を行ないたい」と考えていますから、中央政府が「製鉄所を作ってはならない」という指令を出しても、いろいろな口実を設けて鉄鋼産業の育成に励んでしまうということが起きているようです。
 このように、中国の内需が大きく落ち込んで景気が失速してしまうといった可能性は小さいわけですが、仮にリスクシナリオとして中国の景気が失速したとしても、比較的短期間でもとの成長軌道に戻るでしょうから、影響は一時的なものにとどまると思われます。中国は若い経済で、日本と異なり潜在的な需要が無限にありますから、政府が引き締め策を緩めれば、いくらでも需要が出てくるからです(拙稿御参照)。中国政府にとっては失業問題が深刻で、これが社会不安につながらないために高成長を続けざるを得ないということも、景気が短期間で回復すると考える大きな理由の一つです。


〔 日本経済の耐久力 〕
 中国経済が一時的に減速したとき、日本の景気回復は持続できるのでしょうか。減速の度合いにもよるでしょうし、米国経済の減速と同時であればインパクトは大きいかもしれません。
 もっとも、中国政府が狙い打ちをしている部分の需要が冷えるだけであれば、それほど大きな影響はないと思われます。現在需要が過熱していて政府が抑制している分野は、住宅建設、零細製鉄所建設などであり、日本製の機械や部品を大量に用いるというよりは、世界中から鉄鉱石などを輸入して中国国内で鉄などを作っている部分だからです。こうした部分が抑制されれば、原油や鉄鉱石などの国際的な需給が緩み、価格が軟化するかもしれません。そうなれば、日本経済への打撃を緩和する面もあるかもしれません。
 日本の景気が自律的な回復を始めているということも心強い材料です。景気回復の初期段階で、輸出が回復を牽引しているときに輸出が落ち込めば、日本の景気が失速する可能性が強いでしょうが、現在の日本はすでに景気の足腰が相当強くなっていますから、ある程度の輸出の減速には耐えられるでしょう。
 こうして考えると、中国リスクが日本経済の腰を折ることは、メインシナリオとしては考えにくいと思います。しかし、中国経済は実態がつかみにくいため、予測は幅をもって行なう必要があるでしょう。リスクシナリオとしては中国発の激震ということも理屈上はありえるわけですから、今後半年程度は中国の状況にも充分な目配りが必要だと言えるでしょう。


〔 おまけ 〕
 中国経済の専門家に聞くと、「ソフトランディングした場合の成長率は7〜8%、ハードランディングした場合の成長率は5〜6%」ということのようです。成長率だけを見ると大差ないように見えますが、日本への影響は大きく異なる場合があるので、注意が必要です。
 ソフトランディングした場合には、内需と輸入がいずれも順調に伸びていきます。一方、ハードランディングした場合には、内需が失速します。しかし、内需が失速しても、中国の企業は需要と関係なく生産を続ける傾向があるため、成長率(=国内総生産の伸び率)はそれほど落ち込みません。生産が増えた分は、輸入が急減したり、在庫が増加したり、ダンピング輸出が増えたりするというわけです。


 

 





以 上

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