2004年10月01日

塚崎 公義
株安は景気後退の前兆か



 


 このところ株価が不冴えですが、株価と景気にはどのような関係があるのでしょうか?「株価も安いし、景気は本当は悪いのではないか?」「株価が下がっているから、景気はそろそろピークアウトするのではないか?」といった話を耳にすることがありますが、信じてよいのでしょうか?


 内閣府の景気動向指数をみると、先行系列の一項目として株価が採用されています。過去の統計をみても、株価がピークをつけてからほどなく景気が悪くなった例がたくさんあります。過去の景気転換点をエコノミストたちが必ずしも正確に予測してこなかったことから、「株式市場の参加者の方が景気を正しく予測できるのではないか」と皮肉を言う人もいるほどです。


 筆者も景気予想屋の端くれとして、株式市場の参加者の方が景気が読めるなどと言われるのは心外ですので、以下に反論を記したいと思います。これは、予想屋のメンツということもありますが、「株価が下がっているから景気が悪化する」と言っている弱気派エコノミストへの反論という意味も持つものです。


 一般に景気は、「景気が回復して拡大を続けるとインフレの懸念が出てくる。インフレ予防のために日銀が金利を引き上げ、金利上昇が景気を冷やして景気の後退をもたらす。景気が後退しはじめると日銀が金利を引き下げるとともに政府が公共投資などを行い、景気を回復させる」というサイクルを描きます。ここで重要なことは、金利が上がってから景気が後退しはじめるまでには、(あるいは金利が下がってから景気が回復しはじめるまでには)、比較的長い時間を要するということです。一方で、金利が上がれば株の競合商品である預金の魅力が増し、株を売る人が増えるから株価の方はほどなく下がる(金利が下がればほどなく上がる)という性格があります。したがって、通常の景気サイクルのなかで、株価が景気に先行することは、不思議ではありません。


 これは、「株価の動きは景気の動きに先行するが、それは株式投資家がエコノミストよりも景気予測能力が優れているからではない。また、株価が下がれば必ず景気が悪くなるというものでもない。株価が下がれば景気が悪化する場合が多いのは、金利上昇という共通の原因があるからであって、現在のように、金利が上がっていないときには、株価が下がったからといって、景気が悪化すると考える理由とはならない」ということを意味しています。


 そもそも平均株価が景気とどの程度関連して動いているのか、やや疑問です。たとえば、株価指数を構成している銘柄は、業種別の構成がマクロ的な産業別構成と大きく異なっています。昨今、IT関連の在庫増をうけた関連企業の株価下落が平均株価を押し下げていますが、日本経済に占めるIT産業のウエイトは平均株価に占めるIT関連のウエイトよりもはるかに小さいので、平均株価が下がったほどには日本経済は在庫増の打撃を受けていないはずです。業種別の偏りのみならず、平均株価が、企業規模別にみて大企業に偏っていることにも留意が必要です。


 また、日本の平均株価が日本経済のみならず米国の影響を受ける面があることにも留意が必要です。たとえばニューヨーク市場の動きが翌日の東京市場に大きく影響するなど、実際の株価は外国の市場の影響を大きく受けています。このところ、米国の利上げにともなってドルの流動性が低下し、これが米国投資家の対日投資などを減らしていると言われていますが、これも日本経済とあまり関係なく日本の株価が下落している例だと言えるでしょう。


 こうしたことを考えると、平均株価の下落は日本の景気の先行きを占う材料とは考えにくく、したがって、株価が不冴えであることをもって、景気後退の前兆だと考える必要はないと思います。


 景気弱気派の根拠として、一理あると思われるのは、「株価の下落が景気に悪影響を及ぼす」というものです。第一は、「景気は気から」という効果です。「株価が下がっているのは景気が悪いからだろう」「株価が下がったから景気も悪くなるのだろう」と考える人が増えると、企業が設備投資をしなくなったり、消費者がリストラを心配して財布の紐を絞めたりしますので、実際に景気が悪くなるというわけです。もっとも、現在の株価は大きく下がっているわけではなく、「景気がよいわりには株価が上がらない」といった程度でしょうから、人々が先行きに不安を感じる度合いはそれほど深刻ではないでしょう。


 第二は、持っている株が値下がりすると、急に老後の蓄えが心配になって消費を手控えるという人がいるというわけです。もっとも、日本の消費者はそれほど株を持っていませんから、こうした効果が景気の方向を変えるほどの大きさになるとは思われません。


 株価が下がると銀行のバランスシートが悪化して、金融不安が再燃する可能性も理屈の上ではあるでしょう。もっとも、銀行のバランスシートは景気回復に伴う借り手の返済能力向上などに伴って相当改善していますので、この程度の株価下落であればマクロ的な金融不安が生じることはないでしょう。


 以上を総合的に考えると、株価が不冴えであることは、景気が先行き後退することを必ずしも意味しないということになります。景気に対して弱気派のエコノミストが根拠の一つとして株安を挙げる場合もありますが、あまり気にすることはないようです。


 むしろ筆者は景気の先行きに強気で、中期的にも日本経済は順調な拡大を続けると見ています(くわしくは、拙稿「日本経済の中期展望」を御参照ください)。その意味では、現在の株価は安すぎるように思いますが、如何でしょうか。


以 上

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