2005年02月04日

塚崎 公義
ユーロ高と人民元


 

 

 最近、ECB(欧州中央銀行)の幹部が人民元切上げを要求して話題となっています。「人民元が割安なので米国の経常収支赤字が拡大し、ユーロが高くなって困っている」ということのようです。しかし、この主張には三つの問題があります。

 第一は、米国の赤字は人民元の安さが主因ではないということです。過去5年間で米国の貿易赤字は幅広く悪化しており、対中赤字の増加額は全体の増加額の3割にすぎません。しかも、対中赤字には日本などの部品が中国経由で輸入されている分も含まれていますから、米国の赤字拡大を中国のせいにするわけにはいかないでしょう。

 また、人民元を切上げても米国の赤字が減らないという点にも注意が必要です。米国企業はこれまでの国際化によって、中国が得意とするような労働集約的な生産ラインを外国に移してしまったため、米国の対中輸入品は米国内で作られていないものがほとんどです。したがって、人民元が切り上がって中国製品が高くなっても、米国企業は代替品を自国内で作ることが出来ず、他の途上国からの輸入に振り替えざるを得ないのです。

 第二の問題は、中国の外貨準備の増加額は対米黒字額を上回っており、その多くは対米投資に向けられているということです。したがって、米国の対中赤字が増えた分は中国政府がドルを買っており、ドルの需給という意味では「対中貿易が赤字だからドル安圧力」ということにはなっていないのです。

 第三の問題は、米国の経常収支赤字とユーロ高の関係がそれほど明確ではないということです。たとえば99年から2000年にかけては、米国の経常収支赤字が急速に拡大しましたが、欧州から米国への投資が活発に行なわれたため、ユーロ安が進行しました。

 こうしたことを考えると、人民元が割安であること(本当に割安であるか否かも実は曖昧なのですが)とユーロ高との間には、「風が吹いたから桶屋が儲かった」という程度の関係しかないわけで、これにECBが目くじらをたてるのは不思議です。米国政府が選挙民向けのパフォーマンスとして人民元切上げを要求するのはわかりますが、選挙と関係ないECBが人民元の切上げを要求するというのは理解に苦しむところです。

 もっとも、日本としては「理解に苦しむから傍観していよう」というわけにもいかないでしょう。ECBの要求に対して市場では「アジア通貨を買おう。人民元が買えないならば円でもよい」という動きが見られますし、「市場メカニズムの働かない通貨は問題だ」という原理原則論が日本の大量介入を抑制しかねないからです。日本政府としては、ECBに反論することまでは難しいとしても、同調して人民元の切上げを要求することだけは避けて欲しいと思います。

 今回は以上ですが、よろしければ、関連する拙稿「人民元は上がらない」も併せて御覧いただきたけると幸いです。


以 上

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