2006年10月17日

塚崎 公義

 

日本経済に「最後の黄金時代」が到来か


 バブル期に日本経済は世界一だと浮かれていた日本人は、バブル崩壊後にはまるで行き過ぎた振り子が反対側に振れるように、日本経済には良いことなど一つも無いといった自虐的なムードに支配されました。ようやく過度な悲観論からは解放されたようですが、次はどうなるのでしょうか。
 筆者は今後数年の日本経済に関しては楽観的で、人々が考えているよりも景気はよくなるのではないかと考えています。そうなると、振り子が今一度大きく楽観に振れる可能性も出てくるかもしれません。そう考える根拠は3つあります。

 根拠の第一は景気循環です。日本経済はいざなぎ景気を超える戦後最長の景気拡大を謳歌しています。景気拡大のテンポが緩やかである上に、企業部門の好調が家計所得の増加に結びついていないため、実感に乏しいと言われていますが、各種の経済指標は確実に改善しています。今後についても、今しばらく景気の拡大は続くでしょう。景気は一度拡大を始めるとそのまま拡大し続ける性質がありますから、国内要因で景気拡大が止まるとすれば、それは日銀がインフレ懸念から金利を引き上げて景気を故意に後退させる時ですが、そうなるのは数年先かもしれません。米国経済が失速するなどの外的ショックがあれば別ですが、予期せぬショックは無いものとして話を進めましょう。

 根拠の第二は団塊の世代の引退です。過去30年を振り返ると、日本経済の最大の問題は需要不足にありました。これは、日本人が「勤勉に働き倹約に励む」という「良いこと」をしすぎたからです。江戸時代には勤勉と倹約が生きるために必要でした。明治時代から高度成長期にかけては勤勉と倹約によって余ったコメを売って工場を建てることが経済発展に必要でした。ところが、高度成長期が終わると、新しい工場が要らなくなり、今までの工場だけでもモノが出来すぎるようになったわけです。それでも日本人は働き続け、倹約し続けましたから、モノが余り、人が余りました。余ったモノを輸出すれば貿易摩擦を生みましたし、余った人を公共事業で雇えば財政赤字が膨らみました。現在の好況も、貿易黒字と財政赤字という「竹馬」に乗っているのであって、「実力」ベースで見た景気(財政を均衡させるまで増税と歳出カットを進め、貿易黒字が無くなるまで輸出を自主規制した場合の景気)を考えれば、背筋が寒くなる思いです。
 そうした中で、今後10年くらいの間に勤勉な団塊の世代が引退し、人数も勤勉さも団塊の世代よりもはるかに少ない世代と入れ替わります。長期的に見れば、これは日本経済の生産力の低下であって、日本経済の衰退とも言い得る現象なのですが、数年のタイムスパンで見ると、意外なことに、これがプラスに作用するのではないでしょうか。まるで、近視の中年が老眼が始まると一時的に視力が回復するように、需要不足の国で供給が減少しはじめると、過渡期には需要と供給が一致すると期待できるわけです。

 根拠の第三は、構造改革の結実です。経済が発展を続けるためには、需要と供給がバランスよく伸びていく必要があります。小泉構造改革は需要不足時に供給サイドの強化を狙ったもので、子供の発育の悪さが問題である時に子供部屋の天井を高くしようということですから、当時は「的外れな政策」でありました。しかし、子供が成長してきた今になって、「天井が高くなっているおかげでいま少し育っても大丈夫だ」というプラス面が前面に出てくるようになりました。
 供給サイドが強化されるということは、これから景気が拡大を続けて需要が増えても、モノや人の需給が逼迫してインフレ懸念が出てくるタイミングが後ずれするので、金融引き締め時期が遠のき、供給サイドが弱かった場合に比べて景気拡大が長持ちするということになります。別の面からみれば、団塊の世代が引退しても残った人々でしばらくの間は日本経済が一流でいられるということになります。

 地価はすでに上昇をはじめています。企業収益は史上最高ですから、株価も上がってくるかもしれません。トヨタ自動車は世界一になるでしょう。これから景気が拡大を続けて団塊の世代の引退がはじまると人手不足の話題が増えていくでしょう。こうした中で、数年後の世界を予想しながら冒頭の振り子の話に戻れば、行き過ぎた悲観の反動で世の中のムードが楽観に大きく振れる可能性はあながち否定出来ないように思われます。
 もっとも、どれほど好調であったとしても、長期的な「衰退」は避けられないでしょう。仮に日本経済自身が何とか人口減少を補って発展したとしても、中国やインド、あるいはロシアといった周辺諸国がそれ以上に発展すれば、間違いなく日本経済の相対的な地位は低下し、存在感は薄れていくでしょう。
 株の世界には「強気相場は悲観の中に生まれ、懐疑の中で育ち、楽観と共に成熟し、幸福のうちに消えて行く」という格言があるようですが、日本経済に関する「最後の陶酔」が、皆が信じていない間に始まっているのかもしれませんね。


 


以 上

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