2007年01月09日

塚崎 公義

 

黄金時代元年の幕開け


(はじめに)
 景気はおおむね順調な拡大を続けています。そうした中で、今年はいよいよ団塊世代の退職が本格化し、日本経済が「最後の黄金時代」を迎えます。今回は、年頭に際し、今年の景気について考えて見ましょう。


(弱い指標より強い景気)
 このところ、個人消費などの弱い指標が目に付きます。マーケットエコノミストなどの中には景気後退の可能性を指摘する人もいるようですが、個々の指標に一喜一憂せずに景気の大きな流れを見失わないようにしたいものです。

 そもそも景気は理由なく方向を変えたりしませんから、景気が後退するとすれば、何か理由が必要です。しかし、経済環境を見渡しても、景気の方向を変えるような材料は見当たりません。こうした中での弱い指標は、一時的な振れであると考えるべきでしょう。今年前半には、米国景気をはじめとして減速をもたらしかねない要因がいくつか見られますから、ある程度の減速はするのでしょうが、これも一時的なものですから、気にする必要はありません。

 個人消費に関しては、可処分所得が就業者数の増加を映じて増加を続けていること、雇用環境の改善傾向が消費者心理を改善させる力が働き続けていること、個人企業の利益も株価も好調であること、などを考えると、不振に陥る理由が見当たりません。足許の弱い指標は天候不順などの特殊要因によるものでしょうから、じきに強い指標が戻ってくると思われます。

 雇用者所得の伸びが鈍いのは、企業が共同体的な性格から利益追求集団に変質したことによるものでしょうから、正社員の給料については今後も大幅な伸びは期待できないかもしれません。しかし、労働力需給が引き締まってくれば、パートやアルバイトといった限界的なところから単価が上昇してくるでしょうし、定年退職者の再雇用の条件も改善してくるかもしれません。団塊の世代が受け取る退職金も個人消費にはプラスでしょう(後述)。

 設備投資についても、企業収益は好調、金融は緩和、企業経営者のマインドも良好ということであれば、不振に陥る理由が見当たりません。バブルが崩壊してから投資を控えてきたために更新投資の需要だけでも大量にあるでしょうし、新規投資の需要も抑えられてきた分が一気に実現すると考えておいた方がよいようです。

 在庫の積み上がりを心配する人もいるようですが、そもそも在庫管理技術が進歩していますから、「在庫圧縮のための減産が景気を後退させる」といったことは起きにくくなっています。在庫が注目されるのは、「企業経営者の見込みほど需要が強くないから在庫が積みあがったのではないか」という可能性があるからですが、今次局面においては、仮にそうしたことがあったとしても、一時的な需要の減速であって、このまま減速トレンドをたどるということはないでしょう。更に言えば、今回の在庫の増加は積極的な在庫の積み増しという部分もあるでしょうから、ますます懸念は不要だということになります。

 消費者物価上昇率の下振れを気にする人もいるようですが、仮に物価が再び下落したとしても、それが実質金利の上昇や買い控えなどによって経済に悪影響を与えるような状況にはないでしょう。

 輸出環境も基本的には良好です。中国の経済は引き続き絶好調を続けています。一部に加熱傾向が見られるために引締め策も採られているようですが、大量の失業者がいるため、本気で引締めを行なうには至っていないようです。米国の景気が若干減速気味ですが、住宅関連を除けばいまのところ大きな落込みには至っていませんし、今後についても一時的な減速の後には再び拡大トレンドに戻るという見方が一般的なようです。為替相場の水準が円安の水準(海外と国内の物価上昇率の格差分も考えると、現在の円相場は歴史的な円安水準にあるようです)にあることも、好材料です。


(金融緩和と緊縮財政)
 金融政策は、引き続き超緩和状態にあります。今年は少しずつ金利が上がっていくのでしょうが、基本的には景気の状況から考えると金利が非常に低いという状況が続くでしょう。一方で、財政の方は歳出削減と並んで目立たない形での増税路線が続いており、景気拡大ペースを抑制する方向に働いています。ポリシーミックスとして円安などによる経常収支黒字をもたらしやすい状況にあるわけです。

 このことは、国内民間需要の不足を財政と海外が補ってきた従来の経済から、海外が単独で国内民間需要の不足を補う方向に変化しつつあることを意味しています(注)。これはまた、景気拡大による需要増、団塊世代引退による供給減(後述)によって需要不足が縮小していく分は、純輸出の減少にはまわさずに、そっくり財政が享受する(景気刺激を行なわずに財政赤字を縮小する)ということでもあります。

 今後の少子高齢化を控えて財政に赤字圧力がかかりやすい時に財政を健全化しておくと同時に、「使う人が多くて作る人が少ない時代」に輸入が増えることを見越して経常収支黒字分を海外に「貯金」しておくという意味もあります。日本経済を考えるとまことに望ましいポリシーミックスだと言えるでしょう。10年前であれば、こうしたポリシーミックスは貿易摩擦を激化させるために採りえませんでした。現在は中国が目覚しく成長していること、米国の失業問題が深刻ではないこと、などにより、こうしたポリシーミックスが採りえる状況になっています。これは大変に幸運なことだと言えるでしょう。

 あとは、こうしたポリシーミックスが続くことを願うばかりです。財務省が財政再建を焦って大幅な増税を行なって景気を失速させるリスクは否定できません。もっとも、阿部政権が成長重視を打ち出していることもあり、少なくとも当面はそうした可能性は小さいでしょう。今一つ、日本銀行がポリシーミックスを忘れて「景気と整合的な金融政策」を目指す可能性があるでしょう。財政が引締め気味である時に金融政策が景気に見合ったものとなれば、政策全体として景気抑制的なものとなりかねません。もっとも、これについても、幸か不幸か前回のゼロ金利解除が結果として失敗したことの「トラウマ」が残っていることで、ある程度は自己抑制が働くと考えてよいように思います。


(リスクを探せば米国と原油)
 国内経済を見渡しても、今年の景気を悪化させる特段のリスク要因は見当たりません。海外にも、特に注意を要するリスクは見当たりませんが、強いて言えば、米国経済が後退して日本経済に影響が及ぶこと、原油価格が再び高騰して世界的な経済の停滞を招くこと、といったあたりでしょうか。

 米国経済については、インフレ懸念も住宅失速懸念も遠のいたという見方が多いようですが、事態が悪化する可能性も消えたわけではありません。住宅投資が減り続け、住宅価格の下落から個人消費にも悪影響が出る(ホーム・エクイティー・ローンが借りられないなど)一方で、インフレ懸念が残るために十分な金融緩和が出来ないということになると、米国の景気が後退するかもしれません。その場合に留意を要することは、「米国が風邪をひくと日本が肺炎になる」、すなわち「米国の需要が落ちた場合、物への需要がサービスへの需要よりも落ち幅が大きいこと、サービスは国内で生産される一方で物はアジアからの輸入が多いこと、アジアに設備機械や心臓部の部品を供給しているのが日本であること、などを考えると、日本経済への打撃の方が米国経済への打撃よりも大きくなる」という可能性があることです。ちなみに、米国のITバブル崩壊によって日本の景気が後退したのはこうしたメカニズムが働いた面が大きいと思われます。

 今一つの可能性は、石油の供給面での問題が発生することです。世界の産油国で反米的な政権が増えていること、イスラム諸国で反米的な勢力が力をつけつつあること、米国自身が海外での反米的な動きに対応する能力を弱めつつあること(大統領のレイムダック化、野党の議会支配など)、イラクが内戦的な状況に陥りつつあること、等を考えると、不測の事態が発生しないとは限りません。実際に供給が止まらなくても、そうしたリスクが見えただけで石油の価格が高騰してインフレになる可能性もあるでしょう。

 もっとも、こうした懸念は頭の体操的なリスクシナリオであって、必要以上に不安視することはないように思われます。


(黄金時代元年)
 景気が拡大を続けるというだけではなく、今年は団塊世代の引退が本格化する年です。団塊世代が引退し、労働力市場に参入するのが団塊世代よりもはるかに人数も勤勉さも少ない世代だということは、長い目で見れば日本経済の発展性を制約するものでありますが、今後数年間に限ってみれば、これがプラスに作用する可能性が高いと思われます。需要不足の経済から供給不足の経済への移行期にちょうど需要と供給が均衡するからです。まるで、近視の中年が老眼が始まると一時的に視力が回復するのと同様の現象でしょう。そうだとすると、今後数年間が日本経済にとって「最後の黄金時代」だということになりそうです。

 団塊世代の引退がもたらす影響は、一義的には供給力を下げて本源的な需要不足を緩和することですが、それ以外にも日本経済へのプラス効果が見込まれます。団塊世代が退職金を受け取り、時間的な余裕が出来、しかも再就職が見つかって老後の生活にも目処が立つとすれば、消費を活発化するでしょう。一方で、企業は人件費の高い団塊世代が退職して彼等を再雇用したり若年層を採用したりすれば、収益に大きく貢献するでしょう。退職金は受け取る団塊世代にとっては所得ですが、支払う企業にとっては引当金の取り崩しであって費用ではないということが、景気にプラスに働くというわけです。

 団塊世代が退職し終わった後にどのような経済が待っているのかという点については、別の機会に考えるとして、とりあえずそれまでの数年間、大きな外的ショックを受けずに日本経済が黄金時代を謳歌できること、そして今年がその元年となることを期待しましょう。


(注)ちなみに、日本経済が本質的に需要不足経済であるという認識は極めて重要です。景気がよくて需要超過だと思われる時期においても、財政収支を均衡させるほどの増税を行ない、純輸出がゼロになるほど海外景気が減速すれば、日本経済は極度の需要不足に陥るでしょう。従来は、好況期と言えども財政赤字と純輸出という竹馬に乗った状態での需要超過だったわけです。米国では金融緩和が効くのに日本では効きにくいのは、日本経済が本質的に需要不足経済だからでしょうし、日本政府が円高恐怖症なのも需要超過によるインフレよりも需要不足による不況が怖いという需要不足経済だからという面が強いのでしょう。



 


以 上

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