2008年03月18日

塚崎 公義

 

為替の徹底介入が必要


(はじめに)
 円高が進んでいます。景気の雲行きが怪しくなっている中で、為替介入は最高の景気対策であり、コスト・パフォーマンスも極めて高いものであります。今回は、この点について考えてみましょう。

(円高のもたらす諸問題)
 景気の雲行きが怪しくなる中で、円高が急激に進展しています。円高が、輸出産業に打撃を与えるのみならず、輸入品と競合する産業にも打撃を与え、デフレ懸念も再燃させかねないことを考えると、これは忌々しき事態です。

 たとえば繊維産業にとっては、円高で輸入原材料の価格が低下しますが、輸入繊維製品の値下がりに対抗するために製品の売値も下げる必要がありますから、決して円高は喜ばしいものではないでしょう。
 消費者にとっては輸入品が値下がりしてプラスの効果があるようにも思えますが、企業部門が疲弊すれば賃上げ率にも賞与にも失業率にも響くでしょうから、円高によって個人消費が増えるとは限りません。

 円高で輸出が減り、輸入品が値下がりし、輸入競合産業も痛手を被るとすれば、ようやく脱却したデフレが再燃してしまうかもしれません。ひとたびデフレに陥れば、金融緩和が景気回復効果をほとんど発揮しないことは前回実証済みですし、巨額の公共投資が行なわれる可能性は低いでしょう。前回のデフレ脱却を主導した輸出は、今回はデフレを強める方向に作用するかもしれません。
 現在は原油価格等の高騰を映じて国内消費者物価が上昇していますが、これはアラブの王様に消費税を課せられたようなものですから、「物価が上昇しているからデフレではない」と考えるべきではありません 。日本人の取り分が減っているのですから、「消費税差引後で消費者物価が下落している」と考える方が経済実態に近いでしょう 。原油価格の上昇が止まり、「高値安定」となっただけでも日本の消費者物価は下落に転じるかもしれない、ということも考えておくべきでしょう。

 円高が株安に繋がっていることも、景気への直接的な影響は大きくないでしょうが、心理的にマイナスであることは疑いないでしょう。

(徹底介入は効果が大)
 現時点で最も重要なことは、政府が徹底した介入を行なって、1ドル100円を死守するという姿勢を鮮明に打ち出すことです。重要なことは、円安対策のドル売り介入は限度がある一方で、円高対策のドル買い介入は強い意思さえあれば無限に続けられるということです。日本政府にとって、ドル買いの原資である円を調達することは容易だからです。大規模介入は国際的な批判を招くこともありますが、幸いなことに、現在の国際情勢を見ると、日本が円高阻止の徹底介入を行なっても、それほど強い批判を受けないであろうと思われます。
 日本政府が「無制限にドルを買って1ドル100円を死守する」という姿勢を鮮明に打ち出せば、民間の投資資金が為替リスクをおそれずに外貨投資を行なえるようになりますから、内外金利差を映じて大量の対外投資が発生し、これが実際に100円台をキープする力となるでしょう。そうなれば、実際には決意を示すだけで、それほど巨額の介入を行なう必要はないのかもしれません。
 日本がこれだけ経常収支黒字を続けていても、過去4年間も介入なしで円安水準が維持できていたのは、4年前に徹底した介入を行なったことで投資家に安心感が生まれたからでしょう。更に長い目で見れば、ニクソンショックから1995年までの長期的な円高トレンドが止まったのは、95年の徹底介入を契機として民間投資資金の円高恐怖症が薄らいできたからでしょう。こうした信頼を政府が守りきるのか、あっさりと消えるに任せるのか、という決断は、今後の為替相場の大きな分かれ目となるかもしれません。

 超短期的な話としては、日銀総裁の空席懸念が強まっている時に断固とした介入を行なうことにも意味があるでしょう。市場参加者の中には、日銀総裁が不在だと介入が出来ないという誤った理解をしている人もいるでしょうから、介入を行なってそうした誤解を解くだけでも、市場の雰囲気に何がしかの影響を与えることが出来るかもしれません。介入は日銀総裁ではなく財務官が行なうので、日銀総裁が仮に空席になっても問題なく行なえるのだということを宣言する効果に期待出来るというわけです。

 為替が100円で踏み止まったことによって一命を取り留めた企業というのは、比較的競争力の強い企業です。したがって、介入により非効率な企業を延命するという批判は当たりません。むしろ、介入せずにそうした企業が倒産した場合、失業対策として公共投資が行なわれかねないことを考えれば、公共投資により延命させられるゼネコンの方が非効率であり、日本経済全体の効率性を損なうことが懸念されるわけです。介入する方がしないよりも日本経済の効率が高いということですから、介入は構造改革路線の一環である と言うことも出来るでしょう 。
  これを別の面から見てみましょう。公共投資の結果、残るのは借金と道路であり、介入の結果、残るのは円の借金と外貨です。道路は維持費がかかり、時と共に劣化していきますが、外貨は維持費がかからず時とともに金利分だけ増えていき、いざという時に石油や穀物に化けてくれるというわけですから、後者の方が望ましいことは明らかでしょう。

(介入はコストが小)

 為替の介入には、直接的なコストはかかりません。むしろ、低金利で調達した円で高金利のドルを買うわけですから、為替変動リスクさえ考えなければ収益事業とさえ考えられるわけです。では、為替リスクについては如何に考えればよいのでしょうか。

 第一に、無限にドル買い介入を続ければ、ドルは値下がりしません。「ドルを買う対価として支払った円が市場に放出され、マネーサプライが増加してインフレ要因となる」と言う人もいるようですが、そうではありません。為替の介入資金は政府が市場から調達しますから、差引すれば市場に円が放出されることにはならないわけです。仮に市場に放出されたとしても、日銀の金融政策で余った資金を市場から吸収すればよいわけですから、問題とはなり得ないのです。

 第二に、仮に短期的にドル安円高が進んでも、為替差損は気にする必要はありません。長い目で見れば、日本経済は少子高齢化で経常収支が赤字化し、円安になるでしょうから、結局は買った値段以上でドルが売れるでしょう。

 第三に、長期的にもドル安円高が続く可能性は、皆無ではありませんが、これは保険だと考えることが可能です。日本経済が長期的に元気で経常収支黒字が続き、円高が続くケースと、日本経済が少子高齢化で経常収支赤字に悩み、円安が続くケースを考えた場合、前者ならば嬉しいことですから、円高差損が解消できなくても保険料だと思えば悔しくありません。逆に後者ならばドルが高値で売却できた分が保険金として受け取れるわけです。火災保険に加入した人が、火事にならずに保険料を払いっぱなしになった場合、「保険に入って損をした」とか「火事にならなくて損をした」とか考えないのと同じことでしょう。

 第四に、それでもドル暴落がこわいという場合には、通貨を分散することが可能です。円をドルに換えた後で、ドルをユーロに換えても、ドルと円の関係ではドル買い介入と同じ効果がありますから、ドルがユーロ等に対して暴落するリスクを抱えている必要はないわけです。

 更には、やや突拍子も無いアイデアのようですが、買ったドルで米国内の油田や農場(実際には石油会社や農業会社の株式)を買うという選択肢もあるでしょう。将来のエネルギー危機や食料危機に対する備蓄だと考えれば、その意味でもコストが保険料だと考えることが出来るはずです。

 


 第一次石油ショックの時には、国内での便乗値上げや賃上げなどが消費者物価を押し上げていましたが、今回はそうした状況とは大きく異なっているわけです。

 輸入原油価格の高騰分がそのまま消費者物価に転嫁された場合、消費者物価は上昇しますが、GDPデフレーターは上がりません。一部でも転嫁できないと、GDPデフレーターは下落します。その意味でも、現在生じていることはデフレだと考えるべきでしょう。

 拙稿「円安こそ構造改革だ」を御参照ください。

 介入もせず、公共投資も行なわず、景気が悪化するのを傍観するという選択肢もあるでしょうが、それによって日本経済が強くなるのか否かは、意見の分かれるところでしょう。筆者は、構造的需要不足という日本経済の特色(拙稿「アリとキリギリス」御参照)を考えると、そうした選択肢は望ましくないと考えています。



 


以 上

本稿は筆者個人の見解であり、筆者の属する組織などの見解を示すものではありません。
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