2008年05月01日

塚崎 公義

 

逆境に耐える日本経済


(はじめに)
 米国発のサブプライム問題、世界的な資源価格高騰、円高等の外部要因、建築基準法改正等の国内要因、といった数々の逆風を受けつつも、今のところ日本経済は何とか耐えているようです。今回は、景気の現状および見通しについて考えてみましょう。

(米国実体経済の悪化)
 米国の景気はどの程度悪化するのでしょうか。そして、それは日本経済にどの程度の影響を与えるのでしょうか。
 米国の実体経済については、仮にリセッションに陥ったとしても軽微なものであると言われています。第一四半期がプラス成長であったこと、第二四半期には減税が実施されること、等を考えると、リセッションが回避出来る可能性もあるでしょう。
 特に注目すべきは、落ち込んでいるのがモノの需要ではなくて住宅投資だということです。一義的には米国の大工さんが失業するわけで、日本は米国人大工さんが日本製品を買わなくなる、といった二次的な影響を受けるだけです。
 ITバブル崩壊時のように、主に影響を被るのが海外のモノの供給者である場合には、米国の成長率の落ち込みが小さい割りに日本への影響が大きく出ますが、今回は米国内の需要減少によって一義的に困るのが米国内の供給者ですから、米国成長率が低下したわりには日本への影響は小さいと言えるでしょう。
 インフレ懸念が金融政策の足枷になるという心配もありますが、足元のインフレ指標を見る限り、インフレが悪循環によって加速しているわけではなく、資源価格高騰が粛々と転嫁されているだけであるように思われます。そうであれば、金融政策への制約はそれほど深刻なものにはならないでしょう。

(金融市場を通じた悪影響)
 米国の景気減速は、ドル安を通じて日本の輸出にマイナスに働きます。もっとも、現状程度の円高ドル安であれば、悪影響は限定的でしょう。円の対ドルレートは円高になっていますが、実質実効為替レート(貿易相手国の通貨も対ドルで切り上がっていること、貿易相手国と日本の長期的なインフレ率格差を考えると昔に比べて同じ為替レートでも日本が輸出しやすくなっていること、等を勘案して計算した、輸出困難度指数とでも呼ぶべきもの)を見ると、現在の円相場は日本の輸出にとってかなり心地よいレベルだと言えるでしょう。
 米国の株安が日本に伝播し、日本の株価は大きく下落しましたが、日本の個人はあまり株を保有していないので、これが個人消費に与えるマイナス効果は限定的でしょうし、邦銀の保有する株式の含み益が減っても、それが直ちにBIS規制を通じた貸し渋りをもたらすということもないでしょう。先のことはわかりませんが、株式市場は落ち着きを取り戻しつつあるように見えますので、今後についても大きな悪影響は見込まれないでしょう。
 サブプライム問題で大型倒産が発生して世界的な金融不安が高まれば、邦銀にも大きな影響が及ぶ可能性はありますが、現在までのところ、問題を抱えた金融機関は(救済合併されたベア・スターンズを除いて)自力で増資を行なっている模様であり、大きな混乱は回避出来る見通しが立ちつつあるようです。

(デカップリング)
 筆者は基本的に中国経済に強気であり、五輪後も中期的に順調な発展を続けていくと考えていますが、短期的にも大きな混乱は生じていないようで、米国経済が減速しても、中国経済は絶好調を続けています。引き締め政策を採ってもなお経済が過熱しているわけですから、外需の落ち込みは中国の安定的な成長という観点から見ればむしろ好ましいことだと言えるでしょう。
 物価の上昇が問題視されているようですが、先進国でも高騰と感じられるような一次産品価格が物価水準の低い中国に与える影響は大きいはずで、この程度の物価上昇率に止まっていることの方が不思議なくらいです。日本の高度成長期にも年率数パーセントのインフレはありましたが、経済成長の阻害要因にはならなかったことを考えると、現状程度のインフレ率は気にする必要はないでしょう。
 その他の新興諸国も、おおむね順調な拡大を続けているようです。日本の輸出を見ると、米国向けは伸び悩んでいますが、他の地域向けは順調な増加を続けています。

(一次産品価格の高騰)
 原油価格の高騰は、アラブの王様が日本に課税しているようなものですから、最終的に企業収益のマイナスにしろ実質消費の減退にしろ、日本経済に悪影響が及ぶことは避けられません。しかし、彼らが世界中から徴収した税金で事業を行なう際には、日本にも大きな需要となって戻ってきます。彼らが徴収した税に占める日本のウエイトよりも、彼らの需要が日本製品に向かうウエイトの方が高いかもしれません。「世界中から集めた税金を用いて日本で公共投資を行なっている」という比喩は、少し極端かもしれませんが。
 いま一つ幸いなことは、日本がインフレによる引き締めと無縁だということです。インフレが心配な状態で一次産品価格が高騰すれば、引き締めによって景気を故意に悪化させる必要が生じかねませんが、そうした心配は全くありません。

(国内要因)
 建築基準法改正の影響は未だに残っていますが、前期比で見た成長率は、むしろ落ち込みからの回復ということで、少しずつ押し上げられていくでしょう。
 これまで個人消費の重しとなってきた特別減税の段階的廃止といった要因も、今後は見当たりません。

 こうした中で、団塊の世代が引退して退職金を手にすれば、多少は消費にプラスの影響が出るでしょうし、パートの正社員化などが進めば、これも多少は消費にプラスになるでしょう。

(米国スタグフレーションのリスク)
 米国がインフレと不況の板ばさみに会うという可能性は、皆無ではありません。しかし、可能性は大きくない模様ですし、何よりも安心なのは、米国がスタグフレーションになった際に、その悪影響を打ち消してくれそうな要因が見られることです。
 米国のインフレ懸念が高まれば、利下げ観測が利上げ観測に変化し、ドル高になるでしょう。そのこと自体、日本の輸出産業にとって大きなプラスでしょう。加えて、ドル高になると原油価格が下落するという傾向が最近は見られますから、米国のインフレが昂進するリスクが大きくないと同時に、日本にとっては米国の需要減という悪影響を、原油安のメリットが和らげてくれることも期待出来るでしょう。

(景気拡大は続くか)
 景気の拡大が続くか否かは、判断の難しいところです。もともと景気予測は、寒風に当たった人が風邪に罹るか否か、という予測に似ています。その時の体調等々の要素が複雑に影響して、わずかな差で罹るか否かの分かれ目になるのですが、どちらになるかによって、その後の展開は大きく変わってくるわけです。
 したがって、一応の理屈はつけますが、最後は運を天に任せて長年の経験と勘に頼って判断するしかありません。強気の理由も弱気の理由も、いくらでも挙げられますが、いずれの影響が大きいのかを理論的に判断するということは、局面によっては極めて困難です。現在は、そうした状況に近いのかもしれません。
 そうした中で、筆者としては、「長年の経験と勘」にしたがって、景気後退は回避できそうだと考えています。そうだとすれば、日本経済が「最後の黄金時代」として緩やかな景気拡大を10年続けるというシナリオも、現実味を増してくることが期待されるところです。
 資源価格の更なる高騰といった事態が生じないとすれば、次の注目点は「衆議院が解散して与党が3分の2の多数を失い、法案が一切通過しなくなる」「米国の新大統領がイラクから撤兵して中東情勢が大混乱する」といった政治の世界に移るのかもしれませんね。



 


以 上

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