2008年06月16日

塚崎 公義

 

五輪後も続く中国の中期的高成長


(はじめに)
 筆者は、4年前に、中国経済を日本の高度成長期と対比し、強気の中期展望を記しました。傍目八目なのでしょうが、幸いなことに、比較的当たっているようです。これ振り返りながら、今後を展望してみましょう。

(七難隠す需要の強さ)
 4年前のキーワードは「需要の強さは七難隠す」でした。緩めすぎたり引き締めすぎたりしてギクシャクすることはあっても、基本的に需要が強い国は経済が成長するということです。日本のように略ゼロ金利でも需要不足で低成長を続けている国とは根本的に異なるわけです。財政赤字も不良債権問題も過剰設備も、経済が成長すれば自然に解決する問題だと記しましたが、基本的にそうなっています。
 4年前の基本的な視点は、日本の高度成長期との比較でした。設備投資が活発で、外国の技術にキャッチアップする過程で生産性も生産力も急速に伸びた一方で、需要も爆発的に伸びました。公害やマイルドなインフレ等はありましたが、成長を止めるようなものではありませんでした。高度成長期の日本は外貨不足と労働力不足に悩まされましたが、中国は外貨準備が豊富で労働力も農村に十二分にありますから、むしろ当時の日本よりも恵まれています。
 こうした基本的な認識は、現時点でも変更する必要はないでしょう。大局観としては、中国に強気を続けて問題ないように思います。

(インフレ懸念)
 中国の経済は、全体的に過熱しているわけではありません。工業製品の価格は、生産性の向上と供給の増加によって抑制されています。株価のバブルも潰れました。不動産価格も、大都市の名目GDPが二桁伸びていることを考えれば、日本のバブル期のような熱狂ではなく、せいぜい若干の割高といった程度でしょう。
 原油価格の高騰分が転嫁されている分は、アラブの王様による消費税と考えるべきもので、インフレと考えるべきではないでしょう。原油価格高騰によるインフレは、一過性のもので、原油価格高騰が止まってから1年経てば、原油価格の前年比はゼロになり、消費者物価の前年比も若干のタイムラグを経てゼロになるでしょう。便乗値上げがあれば別ですが、そうした様子は見られません。
 物価上昇の主因は食料価格の高騰ですが、これは農村の所得向上の裏返しです。農村から都市へ労働力が流出したことで食糧生産が停滞し、一方で都市の食糧消費が贅沢化したことで、需給両面から食料価格が高騰しているのだとすれば、都市の発展の恩恵がようやく地方にも及んできたと考えるべきでしょう。今後、豊かになった農家が耕運機を買えば、農産物の増産も出来るでしょうし、都市への人口の流出も持続し得るでしょう。何億人という農民が消費水準を少しだけ引き上げれば、新たに莫大な需要が出現し、中国経済全体を一層引き上げる原動力となるでしょう。

(消費のウエイトの低さ)
 中国のGDPに占める個人消費のウエイトが低いため、輸出あるいは投資が少しでも減速すると経済全体が不況に陥りかねないと心配する人がいますが、過度な心配は不要でしょう。大都市を除き、中国の物価は極めて安いので、GDPに占める個人消費のウエイトが小さくなっていますが、量で見れば個人消費のウエイトはそれほど低くないはずだからです。輸出用のテレビは、内陸部で売られているテレビの2倍の品質で10倍の値段だとします。テレビの輸出とテレビの個人消費の金額がGDP上同じでも、実際には輸出の10倍だけテレビが国内向けに出荷されており、それが爆発的に増えているのです。
 いま一つ留意を要するのは、輸出品には輸入部品が多用されているということです。品質重視の輸出品は、輸入部品を国内で組み立てているので、輸出が100減ると部品輸入が70減り、国内生産は30減るだけかもしれません。一方で、品質よりも価格重視の国内向け出荷品は部品も国産なので、売り上げが100増えると国内生産が100増えるかもしれません。

(一時的には軽微な減速か)
 米国の景気減速が中国に与える影響は、さほど大きくないでしょう。米国の需要が落ち込んだ時、輸入が減る場合にはGDP成長率は落ちませんから、「米国の成長率が落ちないのに中国に被害が生じる」ということになりかねません。しかし今回は、落ち込んでいる米国の需要が住宅投資ですから、被害は米国の大工さんに生じていて、「米国の成長率が落ちたわりには中国の被害は軽微だ」ということになっています。いま一つ、米国の景気が鈍化すると米国人消費者が節約しますから、日本製品から中国製品に需要がシフトするという面もあります。いずれにしても、中国の輸出はそれほど落ち込まないでしょう。
 五輪後の景気の落ち込みも、それほど極端ではないように思います。あれだけ大きな国ですから、北京周辺の公共工事が消えたからといって、国全体に大きな影響が生じるということもないでしょう。
 金融の引き締めがどの程度行なわれるかにもよりますが、「ある程度成長しないと失業問題が深刻化する」というプレッシャーが強い中では、「景気に構わずインフレを抑制する」という政策は採られにくいでしょう。
 したがって、仮に一時的な景気の減速が見られたとしても、軽微なものに止まる可能性が高いでしょう。

 もちろん、あれだけ大きな国で、しかも統計の信頼性が低いわけですから、景気調節は極めて困難で、時には引き締めが行き過ぎたり足りなかったりするでしょう。したがって、景気がある程度ギクシャクすることは避けられないでしょう。しかし、軽微な落ち込みはあっても、深刻な落ち込みは見込まれず、基本的には順調な成長が今後も数年間は続くのではないでしょうか。
今回は以上です。



 


以 上

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