2009年01月01日

塚崎 公義

 

景気の底打ちは意外と早い


 



(はじめに)
 あけまして、おめでとうございます。今年も、よろしくお願い致します。
 早速ですが、景気は驚くほど急激に悪化しています。あまりの景気悪化に、めでたくないからという理由で賀詞交換会を中止した業界があるほどです。景気関連の明るい話は探しても見当たりませんし、明るい景気予測も聞こえません。しかし、筆者は景気の底打ちが意外と早いという持論を堅持しております。新年にあたり、一人くらいは明るい話をする無謀な人物が必要であるとの使命感?もあり、今回は明るい景気見通しを御披露したいと思います。


(金融危機と通常の不況)
 はじめに、今回の不況の震源地である米国の景気について、考えてみましょう。米国の今次不況は、「金融危機型の不況が従来型の不況を誘発しつつある」ものです。では、金融危機型不況と従来型不況は、どのように異なるのでしょうか。
 金融危機型不況の特徴は、「借金さえ出来れば買いたい」と考えている人が多数存在していることです。今回は、景気が急激に悪化しましたが、これは銀行の融資態度が急に厳しくなり、住宅や自動車といった高額のものを借金で買おうと思った人が買えなくなったことによるものです。
 需要が存在していて、資金繰りが問題なのであれば、資金繰りさえ付けば需要が顕在化し、景気は回復するでしょう。極論すれば、政府系銀行が「借りたい人には無利息無担保無審査で無制限に融資する」と決めれば、景気は一瞬でリーマン・ショック前の状態に戻るはずです。その際の回復速度は、落ち込んだ速度と同様に迅速なものとなるでしょう。
 もちろん、金融仲介機能が一瞬で完璧に回復する、といったことは考えられないわけですが、リーマン・ショック後に急騰した銀行間貸借の金利(LIBOR等)がすでに低下していること、中央銀行が必死に資金供給を行なっていること、などを考えると、速度は別として、方向としては金融仲介機能が回復しつつあるでしょうから、それにつれて需要も回復してくることが期待されるわけです。
 金融危機型不況は、実体経済という風船を金融危機が押え付けているイメージであり、景気悪化の速度も回復の速度も、金融仲介機能の状況によって、いくらでも速くなり得るわけです。
 
 一方、通常の不況の場合には、将来の不安から消費者が財布の紐を締めたり、売上不振を予測した企業が設備投資を控えたりしますから、借金をして消費や投資を行なおうという主体があまり存在しません。従来型不況がある程度以上深刻になると、金融がいくら緩和されても、借金をして物を買おうという需要自体が消滅するため、金融緩和が効きにくくなるわけです。
 これは、物が売れない→企業が作らない→企業が雇わない→家計の所得が減る→家計が買わない→企業が物が売れない、といったスパイラルを通じて景気が悪化していくものです。景気悪化のスピードは緩やかですが、一度悪化しはじめると景気がそのまま悪化を続けるメカニズムが働くため、輸出の急増や大胆な財政金融政策などがないと、なかなか景気が回復しないということになります。これは、風船から空気が抜けて萎んでいくイメージでしょう。
 
 今回は、金融危機が従来型の景気悪化を誘発しているため、金融仲介機能が回復する速度と程度が問題となります。金融仲介機能の回復により押さえ込まれていた需要が顕現化するスピードと、景気が悪循環で自律的に悪化していくスピードの競争になるからです。金融仲介機能の回復に時間がかかると、その間に従来型の景気悪化の悪循環が進行してしまうため、緩やかな金融仲介機能の回復では悪循環を逆転させることが出来なくなってしまいます。長時間風船を強く押していると、風船の空気が抜けて反発力が無くなり、押すのを止めても風船が元に戻らない、といったイメージでしょう。
 従来型の不況が支配的になる前に金融危機型不況が和らぐ場合には、通常の景気循環よりも短期間で不況が終了することになるでしょう。一方で、従来型の不況が支配的になってしまえば、不況の谷が深いだけに、景気が始まるまでに長い時間を要することになりかねません。
 その意味で注目されるのが、自動車販売が落ち込んでいる理由です。自動車ローンが借りられないから買えないのか、雇用不安等々から需要が落ち込んでいるのか、いずれが主因なのかによって、今後の見通しが大きく変わってくることになります。前者ならば急激な回復も見込得ますが、後者であれば、既に悪循環が支配的になってしまっているということだからです。
 これについては、両方の理由があるとは思いますが、リーマン・ショック後の自動車販売の落込みが急激であったこと、他の個人消費項目に比べて自動車販売の落込みが突出していること、などを考えると、自動車ローンが主因ではないかと考える次第です。


(金融仲介機能の回復時期について)
 金融仲介機能が一気に落ち込んだ主因は、リーマンを米国政府が見殺しにしたことにより、金融機関相互間の資金貸借市場が凍りついたことです。これについては、状況は徐々に改善しつつあります。「大手銀行は潰さない」という米国政府の姿勢を市場が信じていないために、改善の速度は緩やかなものに止まっていますが、新大統領と新財務長官が就任すれば、事態は大幅に改善することが期待されます。米国政府が信頼されていない理由の一つは、リーマンを見殺しにしたポールソン財務長官に対する不信であり、市場原理主義的なブッシュ政権に対する不信だからです。
 金融仲介機能がなかなか回復しない今一つの理由は、金融機関や投資家のリスクテイク能力の低下です。これは、不良債権の増加、株価の下落等々で金融機関の自己資本が毀損されたことなどによるものです。これについては、株価などが戻ってくれば、事態が改善することが期待されます。株価を予想することは難しいのでしょうが、現在の株価は各種の投売り(ヘッジファンドの解約に伴なう換金売り、個人投資家の手仕舞い売り、等々)によってフェアバリューを大きく下回っている可能性があり、こうした売りが一巡するとともに、ある程度の水準まで短期間で戻る可能性もあるでしょう。
 もっとも、これも時間との競争という面が強いことには留意が必要です。景気が悪化して不良債権が増加し、金融機関の自己資本が一層大きく毀損されてしまえば、株価が回復しても金融機関のリスクテイク能力は回復しないかもしれないからです。政権交代が株価にどの程度影響を与えるのか分かりませんが、「情勢が緊迫している時に政治の空白が生じている」という不安定感が払拭されるだけでも、何がしかの効果はあるものと期待される所です。


(未知なる危機への恐怖心からの解放)
 今回の景気の急速な落込みの一因として、需要が「未知の危機への不安」により凍りついたという面も大きいでしょう。従来型の不況であれば何が起きるか見当がつきますが、金融危機は何が起きるか見当が付きにくく、しかも政府が思わぬミスをして被害が急激に拡大するリスクも従来型の不況に比べて格段に高いといったことを考えると、従来型インフルエンザと新型インフルエンザの違いにも似た、怖さの違いがあるわけです。
 したがって、万が一にも世界恐慌に陥る可能性までも含め、何が起きるか見当が付くまでは様子を見よう、という需要が多かったものと思われます。亀が未知の怪物に遭遇した際に、とりあえず頭を甲羅の中に引っ込めてみる、といったイメージでしょう。理屈上は雇用不安等々を感じる必要がない人々の中にも、今次局面で消費を手控えている人が多いようですが、これは深層心理として世界恐慌といった可能性に対する漠然とした不安が影響していたものと思われます。こうした場合には、住宅建設や自動車購入といった高額の案件を中心として、一刻を争う場合を除き先送りされることは自然です。しかし、金融危機が和らいでくれば、こうした恐怖心による需要の凍り付きが徐々に氷解し、これも景気の回復に寄与することになるでしょう。


(日本は米国よりも先に回復する)
 日本経済と米国経済を比較すると、多くの面で日本経済の方が受けた打撃は小さいと言えるでしょう。第一に、住宅バブルが生じていませんから、過剰投資の反動も不良債権も生じていません。第二に、サブプライム・ローン関連の被害が小さく、日本の金融機関は欧米に比べて遥かに健全です。日本が間接金融主体の金融システムであること、メインバンク制やリレーションシップ・バンキングにより銀行がある程度まで借り手の苦境に際して支援を行うこと、等も、日本の資金仲介機能が米国に比べれば相対的にマシである理由の一つと言えるでしょう。
 日本経済が深刻な打撃を受けているのは、世界的な信用収縮により輸出が激減していることによるものです。しかし、輸出は、このまま落ち続けていくわけではなく、一時的に大きく落ち込んだ後で、緩やかに回復してくることが見込まれます。理由の第一は、海外に於ける在庫の水準訂正が一巡することです。輸入者の月商が100、在庫が1ヶ月分だとして、売上が80に落ちれば適正在庫が80に減るため、当月の輸入量は60となりますが、来月以降の輸入量は80に戻るでしょう。理由の第二は、輸入者が資金繰り難から在庫を絞り込んでいる可能性があることです。この場合には、在庫が適正水準を下回っているはずですから、来期以降の在庫が減り続けることは考えにくく、むしろ資金繰り難の緩和とともに在庫の積み増し需要も出てくることが期待されます。
 一方、日本が欧米諸国よりも早く回復すると考える最大のポイントの一つは、金融危機後に一次産品価格が暴落したことです。欧米諸国と比べると、日本は一次産品を海外に依存している割合が高いため、価格暴落は日本経済にとって、「アラブの王様が消費税を10兆円減税してくれた」以上の効果があると言えるでしょう。
 懸念材料としては、円高の影響が挙げられます。もっとも、これにも輸出産業への悪影響を相殺する力として輸入産業への好影響があることを考えると、過度に不安視する必要はないのかもしれません。今一つの懸念材料としては、米国の不況がビッグスリーの破綻等々により予想外の悪化を辿ることです。これについては、米国政府が誤りを犯さないように祈るばかりですが、現在の議論を見ている限り、ビッグスリーが破綻する可能性は小さいと考えてよいでしょう。
 
 こうしたことを総合的に考えると、日本の景気回復は意外に早いでしょう。景気回復が来年にずれ込むとしているエコノミストも多いようですが、筆者のイメージは、4−6月には景気が底を打ち、7−9月には回復に向かうというものです。
 たとえば、3月末の資金繰りを不安視して身を縮めていた企業が4月以降少しずつ投資活動を再開するかもしれません。金融機関も3月末を超えれば少しずつ融資態度を軟化させるかもしれません。そうなれば、遠からず景気は底を打つでしょう。
 また、たとえば世界恐慌の恐怖が和らいでくれば、株価が割安であることに着目して底値を拾う動きが出てきて株価が戻ってくるでしょう。そうなれば、人々のマインドが明るくなるのみならず、金融機関等のリスクテイク能力も回復してくるでしょう。リーマン・ショックから半年も経てば、奈落の底に落ちていく感じが薄らぎ、各国政府の必死の努力が市場にも理解され、際限のない事態の悪化といった連想は薄らいでいくことが期待される所です。
 もっとも、景気が「急激に大きく落ち込み、緩やかに回復する」とすれば、景気の水準が回復するまでには時間を要するでしょう。人々が景気の回復に気付かないうちに来年になり、後から振り返って今年の4−6月期が底であったことに気付く、ということになるのかもしれませんね。

 今回は以上です。




 


以 上

本稿は筆者個人の見解であり、筆者の属する組織などの見解を示すものではありません。
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