2009年09月16日

塚崎 公義

 

リーマンショック1年に思う


 9月15日、J-WAVE JAM THE WORLDの「THE CUTTING EDGE」のコーナーに出演しました。
 下記は、その際に用意した想定問答です。結局は想定問答と大幅に異なる内容となりましたが。

Q.
リーマンが破綻してから、世界の景気が急に悪くなりましたね?
A.
大手金融機関を米国政府が見殺しにしたため、金融機関相互で資金の貸借を控えるようになりました。
すると、銀行は自分の資金繰りを心配して、融資に慎重になりました。それにより、米国の企業や個人は借金で設備投資をしたり自動車を買ったりすることが出来なくなり、景気が悪くなったのです。
日本は、米国に機械や自動車を大量に輸出していますから、これが売れなくなると日本の景気にも大きな影響が出た、というわけです。

Q.
株価も随分下がりましたね?
A.
景気が急激に悪化し、どこまで悪くなるのか判らない、という恐怖もありましたから、株を買う勇気のある人がいませんでした。
一方で、借金で株を買っていた人は、銀行に融資の返済を迫られて、泣く泣く株を売らざるを得ませんでした。
株の世界では、「皆が売っているから株価は下がるだろう。自分も売ろう」という人も多いので、益々下落した、という面もあるようです。
Q.
過去1年で、変化を感じたのは何時ですか?
A.
年が明けたころから、変化を感じました。金融面での混乱が落ち着いたので、昔懐かしい普通の不況になったわけです。その後も、経済は悪化していきましたが、何が起きるのかわからない、という緊張感が弱まって、ホッとしましたね。
Q.
景気は最悪期を脱したと言われますが?
A.
要因は3つあります。第一は、各国の政府が銀行に資金を供給して、貸し渋りを解消したことです。金融は経済の血液だと言われるように、オカネが廻らないと、経済も廻りません。優良企業でも、銀行が一斉に資金を引き揚げたら潰れてしまうわけですから、そうした事態を防げたのは幸いでした。
第二は、ビックリして生産を絞り過ぎた部分が戻ってきたことです。世界恐慌が来るかもしれないので何が何でも生産を絞っておこう、というところから、普通の不況だから極端な対策は不要だ、という事になってきたわけです。
第3は、需要が少しずつ戻ってきたことです。エコカー減税をはじめとする政府の景気対策もありますし、中国経済の回復などで輸出が戻り始めたことも好材料です。
Q.
失業率は戦後最悪となっていますが?
A.
失業率は、景気の動きに遅れて動く性質があります。社員をリストラせずに頑張ってきた企業が、力尽きてリストラに踏み切る例が、景気回復の初期にはまだまだ多いからです。
したがって、失業率が上昇しているから景気は悪化している、と考える必要はありません。景気はゆるやかに回復しはじめていると思います。
Q.
株価は大分戻って来ましたが、景気が良くなる兆候なのですか?
A.
株価は、一時7000円を割りましたが、大分戻って、1万円を超えて来ました。売られすぎていた分が戻ったという事だと思います。世界恐慌の心配が無くなったこと、借金で株を買っていた人の売りが終わったこと、などが理由でしょう。
株価は景気の先を行くと言いますが、5月以降は横這いであり、景気がどんどん回復していく兆候とは言えそうもありません。株価も下がりすぎていた分が戻っただけで、生産も減りすぎていた分が戻っているだけでしょう。
景気は緩やかな回復を続けるでしょうが、急激な回復を期待するわけには行かないと思います。
Q.
急激にではないが、緩やかな回復は続く、というわけですね。世の中には景気が再び悪化すると心配している人もいますが?
A.
金融危機という得体の知れない危機は、とりあえず政府が頑張って乗り越えました。世界恐慌が来るかもしれない、という恐怖心も和らぎました。したがって、先行き不安から極端に生産や投資を抑えていた企業が少しずつ元に戻りつつあります。
失業が増えると消費に悪影響があると心配する人もいますが、今回の場合は、危機にビックリして減りすぎた消費などが戻ってくる部分もありますから、それほど心配する必要はないでしょう。
中国経済が順調に伸びていることも、日本経済にとっては明るい材料です。
Q.
中国経済は、なぜ好調なのですか?
A.
第一に、日本の高度成長期のような国ですから、もともと需要が旺盛で、投資の機会も無限にあります。したがって、輸出がダメなら内需があるさ、という事が言えるわけです。
第二に、政府の積極的な景気対策が効いたことです。財政赤字が深刻ではないので、思い切った財政出動が出来たこと、民主主義ではないので意思決定が早かったこと、などが理由として挙げられます。
Q.
アメリカ経済はどうですか?
A.
アメリカ経済は、金融危機の震源地ですから、問題を抱えていることは間違いありませんが、景気が底を打っていることは確かでしょうし、緩やかでしょうが、今後も回復を続けると思います。
Q.
過去1年のアメリカ政府の危機対応をどう評価しますか?
A.
緊急事態に対する対応としては、よくやったと思います。金融安定化法がなければ、大手銀行の倒産が相次いで、今頃世界経済は目も当てられない状況になっていたでしょう。安定化法により大手銀行の倒産が防がれたわけですから、非常に大きな効果があったと言えるでしょう。
巨額報酬に対する批判など、批判はあるでしょうが、緊急事態に対する対応策としては、他に手が無かったと思います。
Q.
米国の金融規制法案については、どう思いますか?
A.
話題になっているのは、金融機関の幹部が巨額の報酬をもらっている事に対して、政府が制限を設けようとして、金融界が反発している、という事でしょう。
しかし、重要な点は、AIGのような、銀行以外の大手金融機関に対しても、銀行並みの厳しい規制をしよう、という事だと思います。それに対し、規制を厳しくすると経済の活力が失われるとか、金融機関がニューヨークから逃げ出してロンドンや香港などに行ってしまうとか、様々な反対が叫ばれているようです。
アメリカは金融危機の震源地ですから、将来に向けて、金融危機が再び起きないように、規制を厳しくすべきでしょう。再び世界に大迷惑をかける事は、許される事ではありません。
Q.
鳩山新政権に期待することは?
A.
最初の1年は、景気回復を最優先に考えていただきたいですね。財政赤字が膨らんでも我慢していただきたいですね。財政再建を目指して景気が悪くなったら、税収が減ってますます財政赤字が増えてしまうので、それは避けていただきたいということです。
無駄の排除、官僚支配の脱却という目標も大事でしょうが、いきなり官僚と対決して来年度予算の成立が遅れたりする事がないように気をつけていただきたいと思います。
Q.
リーマン・ショックの政府に対する教訓は?
A.
第一に、オカネの流れが止まると大変なことになる、ということです。
第二に、一社が潰れると金融業界全体が大混乱する場合がある、ということです。
だからこそ、政府は金融機関を手厚く保護しなければならないわけです。
一方で、金融機関は周囲に迷惑をかけないように慎重に行動しなければいけないし、自分で慎重になれないならば政府が規制するしかない、ということでしょう。
Q.
リーマン・ショックの庶民に対する教訓は?
A.
第一に、バブルは繰り返すということです。投資チャンスのように見えても、バブルである場合も多いので、バブルに踊らないように慎重に見極めることが重要でしょう。
第二に、遠い国で起きた事が、グローバル化の時代には、津波のように自分に降りかかってくるという事です。海外で起きていることでも、自分に関係ないと考えずに、普段から興味を持って見ておく事が大事なのではないでしょうか。

 




 


以 上

本稿は筆者個人の見解であり、筆者の属する組織などの見解を示すものではありません。
また、読者に投資などを勧誘するものでもありません。
TEL: 03-5297-7311 - FAX: 03-5297-7314
Copyright © 2000 CMD Co., Ltd. All rights reserved.
Prev Index Next