2010年01月04日

塚崎 公義

 

本格的な景気回復の年



(はじめに)
 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。
 昨年は、景気が早期に底打ちし、着実な回復過程を辿った一年となりました。昨年1月に「景気の底打ちは意外と早い」と記しましたが、その通りとなったわけです。今年もこの傾向は続き、景気は本格的な回復に向かうでしょう。今回は、そう考える理由を記すことにしましょう。


(昨年の米国は「金融危機」から「普通の不況」へ)
 日本の不況は米国発ですので、景気の回復を論じるためには米国の景気について論じることが必須です。そこで、本稿の前半は米国の景気について論じることとします。まずは、昨年の回顧です。
 今次不況の原因は、金融危機でした。金融仲介機能が低下して「借りたいけれども借りられない」人が増えたこと、「100年に一度の危機」に怯えて「借金してまで買いたくない」と考える人が増えたこと、の両面あったわけです。
 米国の政府による金融機関への公的資金の注入、中央銀行による市場への潤沢な資金供給などにより金融危機が一段落すると、金融仲介機能が回復したのみならず、「普通の不況」である事が次第に明らかになり、消費者心理も企業家心理も大幅に回復し、景気は回復に向かったのです。
 一連の変化は、「落ち込みすぎた需要が復元されつつある」ということであって、こうした流れは今後も続くと考えられます。


(米国経済は危機前に戻るか)
 「米国の家計の過剰消費は修正されるべきであり、現在はその過程にあるのだから、米国の消費は容易には回復しない」という人がいますが、そうでしょうか。米国人が過剰消費であるか否かの判断の根拠として、米国の経常収支が赤字であることを挙げるとすれば、それは予測には無益です。
 米国の家計は「自分が消費を減らさないと米国の経常収支赤字が減らないから、がんばって消費を減らそう」とは考えないでしょう。彼らは、自分の資産と負債と所得(予想される将来の所得を含む)のみを考えて行動するからです。したがって、基本的には米国の個人消費は危機前の水準に戻ると考えるべきでしょう。
 もちろん、ある程度の時間はかかるでしょうし、完全には戻らないでしょう。一つには、危機前の消費水準が「バブル」的な要素を含んだものであったからです。今ひとつは、住宅価格の下落によって米国の家計が借金をする時の担保が減少し、借金が困難になった家計が少なくないからです。しかし、今次落ち込みの幅の大きさに比べれば、こうした要因はそれほど重要なものとは言えないでしょう。


(90年代の日本との比較)
 90年代の日本がバブル崩壊の後遺症に悩んだこととの対比で今次米国の景気後退を論じても、今回の影響がそれほど大きいとは思われません。
 第一に、今回のバブルの規模が小さかった事が挙げられます。日本では、大きなバブルが崩壊した後遺症を(不良債権処理を先送りしながら)時間をかけて処理したわけですが、米国では小さなバブルが崩壊した時に不急不要な手術をして激痛を招いたというだけの事ですから、短期的な痛みが治まってしまえば後遺症は大きくないわけです。
 第二に、米国人は消費好きで日本人は貯蓄好きですから、不況期の財政金融政策の効き方が米国の方がはるかに大きいという事が挙げられます。少しだけ需要を刺激すれば雪だるま式に需要が拡大していくのが米国経済だ、というわけです。
 第三に、日本でさえも96年度には景気がそこそこ好調であった、という事を思い出す必要があります。97年には大増税とアジア通貨危機と、三洋証券のデフォルトに伴う山一證券の破綻などが重なったため、景気が一気に悪化したわけですが、そうした大事件が3個続けて発生するという不運がなければ、景気回復によってバブルの後遺症が大幅に軽減されていたかもしれないわけです。


(日本の景気回復)
 上記のように、米国の景気は危機前の水準に近い所まで回復していくと考えられます。米国経済の落ち込みが日本の輸出を激減させた事を考えると、反対に米国の景気回復が日本の輸出を回復させ、それにより日本の景気が順調に回復していく可能性が高いと考えるべきでしょう。米国の景気回復は、日米金利差の拡大を通じてドル高をもたらし、これが輸入品と競合している国内製造業にとって干天の慈雨となることも予想されます。
 中国経済が「デカップリング」により順調に成長を続けている事も、日本を含む近隣のアジア諸国にとっては大きなプラス材料と言えるでしょう。
 国内要因に目を転じれば、民主党政権の「バラマキ」が短期的には景気回復に寄与する事も、重要です。長期的な財政赤字の問題はともかくとして、短期的に緊急事態を脱するためには子供手当てなどの政策は有効だからです。
 デフレスパイラルといった懸念も囁かれていますが、深刻な問題ではないでしょう。エネルギーと食料を除いたベースの消費者物価指数は、年率1%も下落していないからです。物価が5%も10%も下がれば問題でしょうが、「売値が1%下がって困っている売り手と喜んでいる買い手がいる」という程度では、経済への影響は限定的でしょう。デフレスパイラルの悪影響を心配する前に、「これほど需給ギャップが大きいのに、なぜ物価がこれしか下がらないのか」と考えてみる方が頭の体操になって有益かもしれません。

 今回は以上です。

 




 


以 上

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