2010年01月28日

塚崎 公義

 

デフレ懸念は杞憂



(はじめに)
 景気はおおむね順調な回復軌道を引き続き辿っています。落ち込み幅が大きかったために景気の水準は未だに低いままですが、原状復帰は時間の問題です。そうした中で、懸念されるのは、デフレスパイラルという言葉が人々のマインドを悪化させていることです。今回は、デフレスパイラルについて考えてみましょう。


(デフレスパイラルとは)
 デフレという言葉は、不況と同じような意味に用いられる場合も多いのですが、ここでは物価下落の意味で使われています。景気が悪くて物が売れないと値下げにより物価が下がる(デフレ)一方で、物価下落が景気を悪化させる力も働くため、悪循環が続くということをデフレスパイラルと呼んでいるものです。
 物価下落が景気を悪化させるメカニズムとしては、2通りの説明がなされています。第1は、安売りを強いられた企業が給料を下げるので、ますます消費が減少する、というものです。第2は、金利はマイナスにならないので、物価が下がると実質金利が上昇し、投資などに悪影響を及ぼす、というものです。いずれも、理屈としては納得できます。


(海の水を一口飲んだら減るか)
 問題は物価が1%下がった時に景気への悪影響がどの程度生じるのか、ということです。「海の水を一口飲んだら減る」という程度の影響しかないのであれば、大騒ぎをする事はミスリーディングです。
 物が売れなければ企業が赤字になってボーナスをカットする、という事は当然ですが、それは売値を下げなくても生じる現象です。売れ行き不振に際して売値を1%下げた事が、ボーナスにどの程度影響しているのか、疑わしいでしょう。現在生じているボーナスのカットが売値の低下に起因するのだ、といった議論が横行していますが、そのような議論はミスリーディングです。
 耐久消費財の購入を考えている人が、「1年待てば1%価格が下がるから待とう」と考えるでしょうか。10%の値下がりが予想される場合ならば買い控えも生じるでしょうが、1%では、影響はほとんど生じないでしょう。


(消費財と資本財)
 なお、デフレスパイラルを巡る議論には混乱が見られる事にも留意が必要です。投資に関して実質金利の高さが悪影響を及ぼすという議論をしているのに、多くの場合、実質金利の計算は消費者物価指数の前年比を用いて行なわれているのです。
 設備投資を考える際の資本財の価格は、消費財よりも大きく低下していますから、これが昨今の買い控えを招いていた事は想像に難くありません。
 もっとも、資本財価格は円高で下落している面もあり、技術進歩で低下している部分もあり、不況による低下分を抽出する事は難しいでしょう。更に難しいのは、人々が将来の価格下落率をどう予想しているかを知る事です。「一時的に投資が手控えられたために資本財需要が急減したが、今後は投資需要も戻る」とすれば、下落しすぎた資本財価格が値戻しする可能性も充分に考えられるからです。これは、人々が資本財に関するデフレの反転を予想するということであり、人々の予想する実質金利はマイナスとなり、投資にプラスに働くかもしれません。

 今回は以上です。

 




 


以 上

本稿は筆者個人の見解であり、筆者の属する組織などの見解を示すものではありません。
また、読者に投資などを勧誘するものでもありません。
TEL: 03-5297-7311 - FAX: 03-5297-7314
Copyright © 2000 CMD Co., Ltd. All rights reserved.
Prev Index Next