2012年04月11日

塚崎 公義

 

少子高齢化は乗り切れる



(はじめに)
 少子高齢化が急速に進行しつつある事から、日本経済の将来には明るい展望が持ちにくいと言われています。 確かに数多くの困難が見込まれますが、いずれも政治が適切な判断をすれば乗り切れるはずです。 今回は、少し大きなスケールで少子高齢化社会を乗り切る方策について考えてみましょう。


(時代区分)
 現在は、バブル崩壊後の長期停滞から抜け出せておらず、恒常的に需要が供給を下回っています。 しかし、数年後には、高齢者が引退して労働力人口が減少することで、需要と供給のギャップが縮小します。 そうなると、日本経済はインフレも失業も気にならない「黄金時代」を迎えます。 ラフなイメージとしては、2015年から2025年まで、といった所です。
 労働力人口が減少を続けるため、黄金時代を過ぎると今度は恒常的に供給が不足する時代を迎えます。 これを「逼迫期」と呼びましょう。 直感的には、労働力不足により経済成長が制約され、物不足によりインフレになり、納税者が減って財政赤字が膨らむ、といった困難が予想されますが、政治が判断を誤らなければ、こうした困難は乗り切る事が可能です。
 逼迫期を乗り切るためには、「労働力が不足しがちになるが、外国人労働者を受け入れない」 「供給不足を補うために輸入が増加しがちになるが、経常収支が赤字にならないように、緊縮財政で国内需要を抑制する」 「需要超過のため物価が上昇しがちになるが、インフレ予防のため、緊縮財政で需要を抑制する」事が必要です。


(国民生活)
 労働力人口は、緩やかに減少していきますが、女性や高齢者の活用などが進むため、実際の労働力の減少は相当緩やかなものにとどまります。 これに対し、労働生産性は緩やかな上昇を続けますから、実質GDP(=国全体としての財およびサービスの生産量)は概ね一定で推移します。 経常収支が概ねゼロで推移すると仮定すれば、国民が全体として使える財およびサービスの量は一定だという事になります。
 一方で、人口は緩やかに減っていきますから、国民一人当たりの平均消費量は減るのではなく、むしろ増えていきます。 国民生活は改善を続けるのです。
 もちろん、個々人によって差はありますが、これは予測の問題というよりも政治判断の問題です。 高齢者の年金を支払うために若者から増税するのか、若者の生活を守るために高齢者の年金を削るのか、消費税で幅広い範囲から集めるのか累進課税を強化して富裕層から集中的に税金をとるのか、といった選択によって、個々人の生活水準は大きく変わるでしょう。
 ただ、可能性が高いのが、非効率が維持出来ないという事です。 たとえば高齢者100人だけが住む離島があり、食料を運んだり病院に通ったりするための船が税金で運行されているとします。 受給逼迫期になると、船の運行が労働力不足によって難しくなりますから、彼等は住み慣れた島を離れなければならなくなります。 今までは、失業者が大勢いましたから、税金で船の運行を続ける事が失業対策にもなりましたが、労働力不足の時代を迎えると、こうした非効率が維持出来なくなるのです。
 そうなると、補助金の性格も変わります。 非効率を維持するための補助金(船の運行費用)ではなく、非効率を打ち切るための補助金(100人の高齢者に島を放棄してもらうための補助金)が使われるようになるのです。
 
 国民一人当たりの平均的な生活水準が下がらないだけではありません。 労働力が不足しますから、働く意欲と能力がある人は全員が仕事にありつけるようになります。 多くの女性や高齢者、就職氷河期で正社員になれなかった元学生などは、仕事にありついていないか、ありついていても不当に低い所得しか得ていませんが、彼等が正当な仕事と所得にありつけるようになるのです。 これは、所得面のみならず、社会参加の機会確保などの面でも重要なことです。


(資本逃避)
 日本国債の信用力が低下すると、国債が売られて海外への資金逃避が起きる可能性があります。 しかし、過度な懸念は不要です。 マイルドな資金逃避であれば、円安によって輸出が増加し、経済がむしろ活性化する可能性もあります。
 極端な資本逃避によって円が暴落しても、それほど深刻な影響は出ないでしょう。 輸出と輸入はほぼ同額なので、輸出業者の利益増と輸入企業の不利益は同程度でしょう。 日本全体としては、ドルの借金よりもドルの資産の方が遥かに多いので、ドルの値段が上昇しても利益を得るのは日本人です。 もちろん、大儲けする人と大損して破産する人が出るのは望ましい事ではありませんが、政府が適切な対策を講じれば、経済への悪影響は限定的となるでしょう。
 15年前の通貨危機では、タイの通貨が暴落してタイ経済が大きな打撃を受けましたが、これはタイの企業などが海外からドルを借りていたため、自国通貨をドルに換えて返済する事が困難になったのです。 日本企業でドル建ての負債を抱えている所は多くないので、円が暴落してもドル建て負債が返せなくなる企業は少ないでしょう。
 上で、「供給不足を補うために輸入が増加しがちになるが、経常収支が赤字にならないように、緊縮財政で国内需要を抑制する」と書きましたが、経常収支が赤字になると外国からドルを借りる必要が生じ、将来起こり得る資金逃避の際の被害が格段に増えますから、経常収支が赤字になる前に、国内の需要を抑制して輸入を減らす事が必要になるわけです。


(国債暴落)
 仮に市場参加者が一斉に国債を売れば、国債価格が暴落します。 国債償還が困難だという噂が市場で流れた場合などには、そうした事も起こり得るでしょう。 しかし、最終的に国債は償還できる可能性が高いですから(後述)、こうした噂は誤りであるという事になります。
 こうした場合には、政府が短期国債を発行して暴落した長期国債を市場で購入すればよいのです。 政府にとっては、額面金額の償還を覚悟していたら暴落した価格で買い戻せたという事で、大きな利益が得られます。
 「国債が暴落すると国債を保有している銀行が大損する」と言われていますが、同額を政府が儲けるのですから、特に大きな問題ではありません。 あとは、政府が儲かった分で銀行に出資をして銀行の破綻を防いでやればよいのです。


(財政赤字)
 財政赤字が続き、政府が借金を返せなくなるのではないか、と考える人が増えています。 しかし、政治がしっかり決断すれば、大丈夫です。
 はじめに、皆が倹約を続ける場合について考えてみましょう。 作る人は減りますが、人々が倹約するので物不足にならず、インフレも経常収支赤字も起きません。 したがって、増税も金融引締めも行なわれません。 高齢者は遺産を残します。 少子化が進み、「最後の日本人」の親が亡くなると、彼(女)は発行済日本国債をすべて相続しますが、同時に同額の納税を命じられますから、何事もなく平和に問題が解決します。
 途中で人々が倹約をやめたら、インフレや経常収支赤字の懸念が高まります。 その時には、増税を行なって購買力を低下させれば需給が均衡してインフレも経常収支赤字も防げます。 ここで肝心な事は、インフレ対策を金融引き締めではなく増税で行なうという事です。 この点だけ政治の強い意志で守られれば、財政赤字は順調に縮小していくでしょう。
 あとは、誰から税金をとるのか、という政治判断の問題です。 高齢者の年金を支払うために若者から増税するのか、若者の生活を守るために高齢者の年金を削るのか、消費税で幅広い範囲から集めるのか累進課税を強化して富裕層から集中的に税金をとるのか、といった選択が必要であり、「総論賛成・各論反対」の人が増加する事が懸念されます。 これを乗り切って増税が実施できるとすれば、日本の財政が破綻することはないでしょう。


(おわりに)
 「そんなにうまく行くはずがない」という読後感を持たれた方も多いでしょう。 筆者自身、本当にそんなにうまく行くのかな、とは思っています。 しかし、うまくいく場合の道筋を示すことで、悲観論一色に染まっている世の中に一石を投じる事はできたのではないかと思っています。
 本稿の詳しい内容は、4月発売の拙著「家族の衰退が招く未来」 (東洋経済新報社、山田昌弘氏との共著)に載っています。 御興味のある方には、是非御覧いただければ幸いです。

今回は以上です。

 




 


以 上

本稿は筆者個人の見解であり、筆者の属する組織などの見解を示すものではありません。
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