2013年01月28日

塚崎 公義

 

アベノミクスへの期待



(要旨)
 円安と株高が進んでいて、景気が回復に向かうと期待されています。アベノミクス(=安倍総理の経済政策)が日本経済をデフレから脱却させ、景気を回復させると期待されているのです。そこで今回は、アベノミクスについて考えてみましょう。
 安倍総理は、大胆な金融緩和によるデフレ脱却、国土強靭化計画などの機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略、という3つを基本方針としています。これが日本経済を長期停滞から長期的な成長軌道に乗せてくれるか否かは何とも言えませんが、少なくとも短期的な景気の回復には資すると期待されます。
 成長戦略は、政策が具体化しないと何とも言えませんので、ここでは長期的な成長にプラスになって欲しいと願っておくだけにして、残りの2点について考えてみましょう。


(財政政策)
 公共投資は無駄であるとの批判がありますが、これは当たりません。防災対策の投資は(プロジェクトを選別すれば)国民の生命財産を守るために必要だからです。更に言えば、仮に無駄な物を作るとしても、政府が自分で失業者を雇うのですから、景気対策としての効果は必ずあります。
 公共投資は効果が一時的なので、「一時しのぎ」に過ぎない、という批判もありますが、これも当たりません。たとえばマッチの火は一時的にしか部屋を暖めませんが、マッチでストーブに点火すれば、暖房効果は永続します。そうした役割が公共投資には期待出来るのです。
 タイミング的にも、現在は公共投資の効果が出やすい時期です。景気の現状を見ると、景気は回復から後退に方向を変えつつあります。今急いで軌道を修正しないと、景気が本格的な悪循環(売れない→作らない→雇わない→所得減→買わない→売れない)にはいってしまいます。悪循環入りを防いで景気を回復方向の好循環に転換させるためには、一時的な力が必要なのです。船が大波を受けて倒れそうになった時、立ち直らせる方向の力を一時的に加える場合と加えない場合では、結果が大きく異なります。景気も同様なのです。そして、加えた力が最も効率的に結果につながるタイミングが今なのです。
 公共投資が景気に効かなくなった、という人もいますが、それはタイミング次第だと思います。深刻な不況の時は、設備も人も余っていますから、公共投資でセメントの需要が増えても、セメント会社は設備投資も新規雇用もしませんが、浅い不況の時であれば、公共投資によってセメント会社の設備投資や新規雇用を誘発する事ができるので、比較的大きな効果が期待できるはずです。
 
 公共投資を増やすと財政赤字が拡大すると懸念する意見もありますが、気にする必要はありません。第一に、景気は「税収という金の卵を産む鶏」ですので、これを大切にする事は当然だからです。第二に、財政赤字が積上っても、「国債が暴落して、この世の終わりが来る」というわけではないからです。国債が暴落する時は、円も暴落します(ドル高)から、政府が外貨準備を高く売り、売却益で暴落した国債を買い戻せばよいのです。なお、財政赤字については、前回の拙稿の(5)も御参照下さい。


(金融緩和)
 理屈からすると、ゼロ金利時に、追加的に金融を緩和しても、効果は非常に小さいはずです。金融緩和とは、日銀が銀行から国債を購入することですが、これを銀行の視点から眺めると、金庫にはいっていた国債が減って、代わりに現金が金庫に積み上がることになります。
 銀行は、貸出先が無いから、外貨投資が為替リスクがあって嫌だから、仕方なく国債を買っていたのであって、金庫に現金が積み上がったから貸出を増やしたり外貨投資を増やしたりする事は考え難いでしょう。したがって銀行は、金庫の現金をそのまま日銀に預金します(準備預金)。結果として、景気にも物価にも為替レートにも何も起きないはずです。
 
 しかし、実際には今回の金融緩和(正しくは金融緩和期待)は、円安と株高を通じて景気にプラスの影響を与えています。これは、市場参加者が「金融緩和はドル高円安材料」「金融緩和はデフレを止めるので株高材料」と考えて、株やドルを買ったからです。彼等がなぜそう考えたのか、彼等なりの理屈はあるようですが、ここで問題なのは、彼等の理屈が正しいか否かではなく、彼等がそう思ってドルや株を買ったという事実なのです。
 「偽薬効果」という言葉があります。偽の薬を患者に与えた場合でも、患者が薬の効果を信じている場合には、実際に病気が治る場合がある、というのです。今回も、実際には効果のない金融政策を、市場が効果があると認識した事で、実際に効果が出たので、広義の偽薬効果であったと考えられます。
 
 もちろん、金融政策自体に効果があったという論者もいます。薬が効いたのか偽薬効果だったのか、両論あるわけです。しかし、いずれにしても効果があるのですから、この論争は、今回に関してはあまり有益なものではありません。偽薬効果だとすると、与えた薬の量と効果とが比例しないので、効き方が予想しにくい、という事はありますが、そもそも金融緩和の効き方はゼロ金利時代でなくても一定していませんから、重要な差ではないでしょう。
 
 今次金融緩和に対しては、財政規律を失わせるという批判があります。国債を発行しても日銀が必ず購入する(政府から直接引き受けるか、一度市場に出た国債を日銀が購入するか、手続き的な違いはありますが、結果的には同じことです)と思えば、政府は安心して財政赤字を続けることが出来る、というのです。政府というものは、「国債が消化できれば、償還の事は考えない」といった無責任な発想をするものだ、という性悪説に立った批判です。
 しかし、戦時中の政府が戦費調達をする場合などはともかくとして、現在の政府はそれほど無責任ではないはずだ、と筆者は考えています。これについては、論者が政府について性善説を採るか性悪説を採るかの違いであって、議論しても仕方ないでしょう。
 
 今次金融緩和に対する今一つの批判は、金融を緩和しすぎるとハイパーインフレのリスクが高まる、というものです。しかし、日銀が適切に金融を調節すれば、ハイパーインフレの可能性は限りなく小さいでしょう。
 あり得るのは、景気の波が大きくなることです。金融を緩和しても、比例的に物価が上昇するわけではなく、世の中でインフレ予想が広まると、人々が一斉に物を買うので、景気が急激に拡大すると同時に一気にインフレになります。そうなると、日銀は厳しい引き締めでインフレ予想を押さえ込むことになり、景気は急激に悪化します。
 
 こうした副作用はあり得ますので、金融を緩和するか否かは、リスクとリターンの比較で決める必要があります。景気の波が大きくなるという程度のリスクであれば、景気が低迷を続けるというリスクよりも小さいので、ここは一つ「偽薬効果」に賭けてみるという選択肢も悪くないように思います。

 今回は以上です。

 




 


以 上

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