2013年11月03日

塚崎 公義

 

駆け込み需要と成長率



(はじめに)
 消費税率の引き上げが決まりました。 その影響などについて様々な試算がなされていますが、駆け込み需要と成長率の関係については、誤解も少なからずあるようです。 そこで今回は、駆け込み需要が成長率に及ぼす影響について考えてみましょう。


(駆け込みと反動)
はじめに、仮定の話として、消費税が全く景気に影響しないとしましょう。 たとえば消費税の景気下押し分とまったく同額の公共投資などによってGDPが維持される場合です。 成長率はゼロだとします。 駆け込み需要を、最終四半期のGDPの0.6%だとすると、成長率は表1のようになります。

表1:駆け込み需要の有無による成長率比較(景気不変ゼロ成長ケース)
駆け込み需要無し/駆け込み需要あり

 来年度第1四半期の成長率は、前の期が増えて今期が減っているため、前期のプラスの2倍のマイナスになっています(倍返し!)。 つまり、気を付けて見ないと、反動減の影響を実際の2倍の大きさであると勘違いする可能性があるのです。
 また、来年度第2四半期の成長率は、プラスとなっています。 これも気を付けないと、「消費税の影響は短期間で克服し、早くも成長軌道に乗った」と勘違いする可能性があります。
 こうした勘違いを避けるためには、GDP統計が発表された時に、今年度最後と来年度最初のGDPを「平均した値」に置き換えて、「実力ベースのGDP」を計算する事です。 表1で言えば、右側が発表された数値で、それをもとに左側を自分で計算してやれば良い、ということになります。
 もちろん、駆け込み需要とその反動減は1四半期だけではありませんが、1四半期だけでも「平均」してやれば、問題は大幅に緩和されるでしょう。
 ちなみに、年度についても、同様の注意が必要ですから、同様の対策が必要でしょう。 表1の右側を見ると、来年度の落ち込み幅が「倍返し」となっている一方、再来年度(消費税引き上げから1年以上経過した時点)の成長率が上振れしているのです。 これも、上記の作業で表1の左側に戻してやると、あらぬ誤解をせずに済むことになるわけです。


(駆け込み以外の影響)
 次に、駆け込み需要が無く、景気対策が無い場合(あるいは消費税の影響をすべて打ち消すには足りない場合)について考えてみましょう。

図1:駆け込み需要がない場合の消費税の影響
図1:駆け込み需要がない場合の消費税の影響

 消費税額に見合った消費の減少が実質GDPの水準を引き下げるので、GDPは図1の[1]から[2]にシフトします。 更に、「売れ行き不振で生産量が減り、すると雇用が減り、すると消費が減る」、といった波及効果でGDPが押し下げられる事を考慮すると、[2]から[3]にシフトします。


(複合的な影響)
 表1の[3]のグラフに、図1で示した駆け込み需要を加味すると、表2の[4]のような成長率と、図2の[4]のような実質GDPの推移となります。

表2:消費税と成長率(景気押し下げ効果考慮後)
[3]波及効果あり・駆け込み無し/[4]波及効果あり・駆け込み有り

図2:駆け込み需要がある場合の消費税の影響
図2:駆け込み需要がある場合の消費税の影響


(コンセンサスとの比較)
 ESPフォーキャストという調査があります。 40名程度のエコノミストの予測を集計したもので、いわば経済見通しのコンセンサスと呼ぶべきものです。 これによると、各四半期の成長率の予測は図3のようになっています 。 参考として、上記拙稿の値を細点線で示してあります。
 ここで明らかにしておきたいのは、細点線は筆者の予測では無い、ということです。 基礎的な成長率(駆け込み需要などの影響を除いて経済が毎四半期ごとに成長していく速度)については、コンセンサスが想定していると思われる数値(今年度は0.7%程度、来年度は波及効果により低下して0.4%程度)を想定し、駆け込み需要もコンセンサスが想定していると思われる金額 と仮定して成長率がどうなるかを試算してみたものです。
 このあたりの数値は、景況感によっても異なりますし、為替や株価や景気対策の内容をどう予測するかによっても異なってくるでしょうが、とりあえずコンセンサス通りだとして、数値を置いてみたものです。
 今年度第3四半期と第4四半期に於ける差は、駆け込み需要が第3四半期から少しずつ表れるとしたコンセンサスに対し、拙稿は第4四半期に集中的に表れるとしたことによるもので、気にする必要はありません。
 問題は、コンセンサスの来年度第1四半期の成長率が拙稿に比べて大幅に低いことです。強引に説明しようとすれば、「駆け込み需要で来年度第2四半期分も相当程度支出してしまったので、反動が第2四半期にも大きく残る」という事でしょうが、かなり不自然な気がします。

図3:コンセンサスによる成長率見通し(年率換算前)
図3:コンセンサスによる成長率見通し(年率換算前)

 ちなみに、図3の成長率から、将来の各期のGDPを予測してみると、図4のようになります。これによると、年度のGDP成長率は、拙稿の方がコンセンサスよりも高くなります。
 もしかすると来年度第2四半期のGDPが発表された段階で、コンセンサスの年度予測が上方修正される可能性があるのかも知れません。

図4:コンセンサスによるGDPの推移予測
図4:コンセンサスによるGDPの推移予測

 繰り返しになりますが、基礎的な成長率が波及効果によって0.7%から0.4%に低下する、というのは筆者の予測ではなく、コンセンサスの予測です。 本当にそうだとすると、消費税増税が「景気拡大という金の卵(雇用、税収、企業収益等々)を産む鶏」を傷付けてしまう事になります。
 是非、そうならないように、万全の景気対策が採られる事を強く希望する次第です。

 今回は以上です。

  1. 年度の数値が四半期の数値の約4倍ではなく約同額となっているのは、四半期GDP統計の季節調整値が年率で発表される(実額を4倍してある)ことによるものです。
  2. ESPフォーキャストは、四半期GDPの予想成長率を年率で示していますが、本稿では年率換算する前の成長率を用いています(年率換算成長率を4で割った値を用いています)。
  3. コンセンサスは、四半期GDPの0.6%程度の駆け込み需要を想定しているようです。 これは、実額として0.8兆円程度に相当します。 表の中では3兆円に見えますが、これは年率3兆円ですから、実額はその4分の1というわけです。 筆者は、今少し大きな駆け込み需要を予測していますが、本稿では筆者の予測は示していません。

 




 


以 上

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