2015年01月05日

塚崎 公義

 

今年の景気は絶好調



(はじめに)

 あけまして、おめでとうございます。今年もよろしく御願いします。
 
 昨年は、消費税増税の影響などで、景気が非常に読みづらかったのですが、今年は攪乱要因が少なく、景気は順調に回復して行きそうです。
 今回は、新年に相応しく、今年の景気を占ってみましょう。


(要旨)

 景気は上を向いています。これはコンセンサスです。景気が上向きの時は、特段の理由がない限り景気には回復・拡大を続ける力が働くので、今年の景気は順調に推移するでしょう。海外からの波乱要因がなければ、絶好調に達するかも知れません。


(景気の現状)

 消費増税以降、様々な景気指標がバラバラな方向を示していて、専門家たちの間でも、景気が良いとか悪いとか、様々な意見が飛び交っています。この間筆者は、一貫して景気に強気の立場を貫いて来ました。
 まずは、アベノミクス批判に反論しておきましょう。消費増税後の経済成長率などは、予想を下回るものでしたが、これはアベノミクスの失敗を意味するものではありません。駆け込み需要が大きすぎた事の反動と理解すべきです。百歩譲って景気が後退しているとしても、それはアベノミクスが悪いのではなく、「アベノミクスは成功だったが、消費増税を乗り切れるほどの大きな成功ではなかった」という事なのです。
 では、実際の数字を見てみましょう。実質GDPも鉱工業生産指数も、前年と比べると冴えませんが、2年前(アベノミクス直前)と比べれば、しっかり増えています。日銀短観の業況判断指数も大幅に改善しています。しかも景気の方向は一時的に下を向いたものの、その後は持ち直して上を向いています(後述)。つまり、アベノミクスは消費増税1回分を乗り切ったのです。
 弱気論者への反論はこれくらいにして、経済指標を冷静に眺めると、素晴らしい状況である事がわかります。失業率は低く、有効求人倍率は高く、「働く意欲と能力を持った人々が簡単に仕事を見つけられる」状態にあります。
 しかも、給料は上がっています。人手不足であり、かつ企業収益も好調なので、これからも上がるでしょう。給料を上げても企業収益が増益なのは、労働生産性が上昇しているからです。不況期にヒマそうにブラブラしていた人々が忙しく働くようになっているのです。
 一方で、物価は安定しています。消費増税の影響を除くと、エネルギーと食料を除いた消費者物価指数は、ほとんど上昇していないのです。


(景気の方向)

 景気は方向が重要です。景気は一度上を向くと、「売れる→作る→雇う→所得増→消費増」といった力が働くので、そのまま回復・拡大を続ける性質があります。国内で消費税が増税されたり海外でリーマン・ショックのような事件が起きれば別ですが、そうでない限りは景気が自分で勝手に方向を変えることは無いのです。
 では、今の景気は上を向いているのでしょうか?昨年は消費増税の影響で強弱入り乱れた経済指標が相次ぎ、景気についての見方も専門家の間で大きく分かれましたが、意外なことに、現時点で景気が上を向いているという点については、ほとんどの専門家が合意しているのです。
 ESPフォーキャストというアンケートがあります。40人ほどの主なエコノミストにアンケートをとって集計するのですが、直近の結果では42名の回答者の中で、昨年も景気は後退しなかったとの回答が19名、昨年一時的に景気が後退したが現在は回復に向かっているとの回答が20名に上っているのです。
 ちなみに、景気後退しなかったと回答した19人も、昨年の4月の消費増税時に景気が上を向いていたと考えているわけではないでしょうが、一時的な振れであって「景気後退」と呼べるようなものではなかった、と考えているのです 。1
 つまり、昨年の景気の落ち込みが一時的であった事、すなわち今の景気は上を向いているという事はコンセンサスであって、あとは一時的な落ち込みが「景気後退」と呼ぶほどの大きさであったのか否か、今の景気が水準としてどれほどか、という議論があるだけなのです。
 消費増税で景気が腰折れし、「売れない→作らない→雇わない→所得減→消費減」という悪循環に陥っているという事では無いのです。
 そうだとすれば、何もなければ今年の景気は上向きだ、という事になります。あとは、何か起きそうか否かを考えれば良いだけです 。2


(国内要因)

 消費税の再引き上げは、延期されました。金融政策は、緩和が強化される事はあっても縮小される事は無いでしょう。


1 景気が後退したのか否かは、政府が一定の基準に基づいて事後的に判断します。つまり、19人は、景気の一時的な落ち込みが政府の基準に達するほどの大きさではなかった、と考えているわけです。

2 今の景気の水準をどう見るか、という点も興味深くはありますが、これについてはアンケートがとられていません。その理由は、そもそも今の景気は何点、という点数で表す事が難しい、という事のようです。筆者は景気の水準についても、大いに強気ですが、これについてはコンセンサスとの比較は難しいようです。ただ、景気は水準よりも方向の方が重要なので、ここでは方向についてだけ論じておきましょう。
 昨年の駆け込み需要の反動減は、時間とともに緩んでいますから、今更景気の下押し要因となる事は考えられません。
 株価が暴落でもすれば、景気への悪影響もあり得るでしょうが、現状程度の株価であれば、それほどの過熱感は無いので、株価が下落したとしても景気に影響するほどの幅にはならないでしょう。
 不良債権を抱えている銀行が破綻する、といった事も考えにくいでしょう。
 一方、賃上げの動きは次第に広がりを見せていますから、個人消費も回復に向かうでしょう。円安が輸出数量を増やすか否かは判断の分かれる所ですが、筆者は肯定的です(後述)。


(中国の景気)

 中国の景気が減速しており、過剰投資の調整で景気が悪化すると心配する人が少なくありませんが、筆者はあまり心配していません。
 理由の第一は、中国政府のコントロールが効いているからです。中国政府は、独裁国家である事もあり、国有企業の比率が高いこともあり、経済のコントロールが機動的に行えています。現局面では、高度成長期から安定成長期への移行をスムーズに進めるために、ある程度の景気悪化(特に投資の落ち込み)を容認する可能性はありますが、あくまでもコントロールされた範囲内の減速に留まるでしょう。リーマン・ショック後、世界中の景気が急激に悪化する中で中国だけが軽傷で済んだ事を記憶している読者は多いと思います。中国政府には、それだけのコントロール力があるのです。
 中国の景気後退について筆者があまり心配していない理由の第二は、日本の中国向け輸出の中に、中国から米国に輸出される製品の部品等がかなり含まれているからです。表面的な統計では対米輸出と対中輸出はおおむね同額ですが、こうした事を考えれば、米国の景気の方が中国の景気よりもはるかに重要だという事がわかります。中国の景気が悪化しても米国の景気が良ければ、米国が中国から大量に輸入するため、中国から日本への部品等の注文も大量に来るのです。
 理由の第三は、米国の景気が良いと米国の金利と株価が上昇し、日本株とドルが値上がりするのですが、中国の景気にはそうした効果がほとんど無い、ということです。中国の景気が後退しても、それがドル円相場を動かす要因とはならないのです。
 今一つ付け加えるとすれば、中国が世界の中でも圧倒的に資源を大量に消費する経済なので、中国の景気減速は世界的な資源価格の下落をもたらし、資源の輸入国である日本にとっては無視できないプラス効果をもたらす、という事が挙げられます。資源価格は投機資金の思惑などにも左右されるため、中国の景気と直結はしませんが、投機資金が中国の景気に注目する場合もありますから、期待値としての日本経済へのプラスは決して小さくないと思われます。


(米国の景気)

 一方で、米国の景気は好調を持続しています。米国の景気が日本経済に与える影響は絶大です 。3  まず、対米輸出が増えます。そもそも消費の中でサービスよりモノの方が増減が激しいので、米国人の消費が増えるとモノの消費が大幅に増えます。米国の経済はサービス化しているので、モノの消費は輸入に直結します。しかも、景気が良くなると「価格も品質も低い途上国製品」から「価格も品質も高い日本製品」に需要がシフトするので、日本製品の輸出は大きく増えます。
 米国が途上国からの輸入を増やしても、日本にとってはプラスです。途上国製品は日本製の設備機械と日本製の部品を用いている物も多いので、日本から途上国への輸出が増えるからです。
 米国の景気拡大が日本経済に与える影響の今ひとつは、ドル高円安をもたらすことです。「米国が利上げをすると日米金利差が拡大して日本人が米国債投資を増やすだろう」という思惑からドルを買う投資家が増えるからです。
 ドル高円安が日本の景気にプラスか否かは議論のあるところでしょうが、少なくとも従来はプラスであったと思われますし、現在もそうであると考えられます。


(ドル高円安)

 ドル高円安の影響については、価格と数量に分けて考える必要があります。前者は、輸出企業がドルを高く売って儲ける分と輸入企業がドルを高く買って損する分です。日本全体としては、輸出と輸入は概ね同額ですから、この効果は概ね相殺するものと思われます。ただ、輸出の方が円建て取引が多いことから、若干損が多いかも知れません。また、輸入企業の損は比較的製品価格に転嫁されて消費を抑制する一方で、輸出企業の儲けは内部留保に使われてしまって景気に貢献しない、という面もあるので、これも考えれば価格面は若干景気にマイナスと言えるでしょう。
 一方、数量面は、間違いなく景気にプラスです。価格競争力の変化によって外国製品に代えて日本製品を使うようになる動きが、日本人(輸入の減少)にも外国人(輸出の増加)にも出て来るからです。日本人の海外旅行が減って外国人の来日が増える効果も期待出来るでしょう。
 もっとも、今回のドル高円安は、輸出入数量への影響がなかなか表われて来ません。そのため、効果自体を否定する論者も多いのですが、外国製品の価格が5割もアップしたのですから、日本製品を使おうという動きが無いはずはありません。その効果を打ち消すような事が同時に起きていると考えるべきです。
 輸入に関しては、景気の拡大でしょう。景気拡大による輸入増加と円安効果による輸入減少が相殺している、というわけです。これは良いことでしょう。


3 米国でITバブルが崩壊した時も、リーマン・ショックの時も、日本経済に大きな打撃となりました。今回は反対に、日本経済に大きなプラスとなるのです。
 問題は、輸出です。「円高時代に計画された海外の工場が最近完成して、そちらの生産が開始された分、輸出が減っている」という企業があるため、円安の輸出増効果を打ち消しているのだと言われています。そうであれば、時間の問題であり、円高時に計画された工場が建ち終われば、輸出は増加に向かうでしょう。
 今ひとつ、「日本企業は地産地消を決意したので、円安になっても消費地に工場を建てる動きは止まらないだろう」という見方もあります。しかし、地産地消自体が「正しい」わけではありません。例えば仮に「1ドル120円で固定相場制に復帰します」と日本政府が宣言したら、それでも地産地消を貫く企業は少ないでしょう。多くの企業にとって、輸出した方が儲かるからです。つまり、地産地消というアイデア自体が、「再び円高になるといけないから」という円高恐怖症の産物なのです。円高が是正されはじめて2年になるので、そろそろ円高のトラウマが薄れて来ると期待されます。まずは国内工場の稼働率を上げて海外工場の稼働率を下げる事からはじまり、近い将来に工場建設自体の国内回帰が本格化する事を期待しましょう。


(原油安)

 原油価格が暴落しています。米国のシェール・オイル生産が本格化していること、中国経済の不振でエネルギー需要が落ちていること、などもありますが、何と言ってもサウジアラビアの政策転換(価格維持のための減産を止める)が大きいでしょう。サウジアラビアがなぜ政策を転換したのかは諸説ありますが、ここでは立ち入らず、原油価格暴落の影響についてのみ、考えることとします。
 日本は、エネルギーをほぼ全量輸入しています。その価格が暴落する事は、「日本政府が消費税を増税した分と同額をアラブの王様が減税してくれた」のと同じくらいの効果があります。これが景気に効かないはずがありません。
 ガソリン価格などが下がると、日銀の目指す「消費者物価上昇率2%」が達成困難になりますが、それは悪い事ではありません。物価上昇率を2%にする事自体が重要なのではなくて、「景気を良くするためには物価が緩やかに上がっていた方が都合が良い」というだけなので、「物価が上がらずに景気が良くなる」のであれば、全く問題ないのです。


(リスクの存否)

 こうして見ると、今年の景気は実に素晴らしく、絶好調を迎える可能性も見えて来ます。しかし、こうした時にこそ、リスクについても考えてみる必要があるでしょう。
 まずは、原油価格暴落によるロシア経済の破綻が国際金融市場に与える影響についてです。日本とロシアの直接の経済関係は深くありませんが、欧州諸国はロシアと経済関係が深いため、ロシアがデフォルトして欧州の銀行の破綻が相次いだりすると大事になりかねません。
 可能性は小さいと思いますが、リーマン・ショックの前にも「米国の貧乏人が住宅ローンを踏み倒しても、日本経済には影響ない」と言われていたことを考えれば、可能性が無いとは言えないでしょう。国際金融の世界は、見えない所で繋がっているからです。
 それ以外には、大きなリスクは見当たりません。欧州の景気は冴えませんが、欧州と日本の貿易量はそれほど多くありませんから、仮に欧州経済がデフレに陥ったとしても、日本経済への影響は限定的でしょう。
 中国経済のバブル崩壊も、可能性はありますが、政府が何とかするでしょう。バブル崩壊で恐ろしいのは金融危機ですが、中国の主な銀行は国有なので、銀行が倒産する可能性が無い事も、安心材料です。また、中国の金融が国際化していないため、万が一中国の金融面での混乱が起きても、国際金融市場の動揺は限定的でしょう。
 米国の金融政策が「出口戦略」を誤ることで株価が暴落する可能性なども皆無ではありませんが、すべての人が早晩来ると予想している利上げが実際に行なわれたとしても、それで株価が暴落するとも思われません。
 以上は、ある程度確率が予測できる事ですが、これに加え、イベントリスク(確率が予測出来ないし、滅多に起きないだろうが無いとは言い切れない「突発事故」)についても、考えておきましょう。
 首都直下型地震、南海トラフ等々の地震はさておき、日本にとって最大のリスクの一つは中東情勢混乱によるホルムズ海峡封鎖でしょう。もっとも、イランと米国の関係が一時期よりも改善している事などを考えると、これも可能性は低そうです。
 意外とありそうなのが、北朝鮮の崩壊です。北朝鮮が頼りにすべき中国に対して敵対的な態度に出ているため、中国が北朝鮮を見捨てる可能性があると言われています。加えて、韓国と中国が仲良くなると、中国にとって北朝鮮が果たしてきた「緩衝帯」としての役割が薄れてきます。これも中国が北朝鮮を見捨てる動機となりえます。
 もっとも、北朝鮮が崩壊しても、難民が日本に押し寄せるとも考えられず、影響は韓国と中国に主に及ぶだけで、日本経済への影響は限定的と考えて良いでしょう。「窮鼠猫をかむ」形で核ミサイルを発射する可能性はゼロではありませんが、それが彼等の破滅を意味する事は明白ですから、さすがにそれは無いでしょう。
 実は筆者が一番恐れているのは、無理して稼働させている耐用年数超えの火力発電所の故障が相次ぎ、電力不足により大規模停電が発生する事です。故障と同時に全国民に一斉に緊急節電要請を流せるようなマスコミ等々の体制の整備が望まれるところです。加えて、今年の冬が暖冬で、電力消費が少なくて済む事を祈りましょう。

 今回は以上です。

 




 


以 上

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