2016年03月05日

久留米大学商学部教授
塚崎 公義

 

インフレに備えよう


(要旨)
・インフレのリスクは人々が考えているよりも高い。筆者の予想するインフレ率自体が高い事に加え、資産運用に際してはイベントリスク(具体的には大地震と国債暴落)による影響の期待値を考える必用がある。
・日銀がインフレ率2%を目指しているのだから、今後10年間の平均インフレ率は2%に近いと考えるのが自然である。
・少子高齢化による労働力不足の時代が来るので、賃金や物価には上昇圧力がかかる
・大災害のリスクも勘案すべき。東京名古屋大阪に大地震と大津波が来た時の物価上昇率と来る確率を掛け合わせた期待値は結構高い。
・日本国債が暴落すれば、それに伴うドル高円安で輸入物価が高騰し、インフレになるであろう。
・従って、資産運用に際しては、インフレのリスクを充分に勘案する事が重要である。

(「おまけ」の要旨)
・老後資金に関するリスクは長生きとインフレであるから、長生きとインフレに強い資産運用を心がけるべきである。
・公的年金は、長生きにもインフレにも対応する心強い存在なので、大切にすべきである。未納分は後から納付すること、年金の受取開始を70歳まで待つことが望ましい。ただし、公的年金が将来は受け取れないと考える場合は、60歳から公的年金を受け取って、全額をドルに換えるべきである。公的年金が破綻するような国の通貨は安くなるに違いないからである。

(本文)
・インフレのリスクは人々が考えているよりも高いと思われる。
BEI(投資家の予想する今後10年間のインフレ率を、物価連動国債の価格から逆算した値)は年率1%程度で推移している。投資家以外の多くの人々の予想も、これと似たようなものと考えられる。しかし、筆者はインフレのリスクは大きいと考えている。そもそも筆者の予想するインフレ率自体、1%より高い。加えて、資産運用に際してはイベントリスク(具体的には大地震と国債暴落)による影響の期待値を考える必用もあるからである。

・日銀がインフレ率2%を目指しているので、それに近づくはず
日銀がインフレ率2%を目指している事を侮ってはいけない。仮にBEIが予想するとおり、今後10年間のインフレ率が年率1%で推移するとすれば、今後10年間は日銀の量的緩和が持続する(プラス数次にわたり追加緩和がなされる)事になるが、それでもインフレ率は1%で推移するであろうか?そもそも市場参加者は10年間にわたり量的緩和が続くと予想しているのであろうか?
「マネタリーベースを増やしてもマネーストックが増えない以上、量的緩和は実体経済には影響を与える事ができない」と考える事も可能であるが、過去3年間に起きた事を考えれば、円安と株高が進み、景気が回復し、人手不足が深刻化し、物価が上昇する可能性も結構高いと思われる。メインシナリオとしては、1%よりも高いインフレ率を予想しておく方が無難であろう。

・少子高齢化による労働力不足でインフレに
いかなる経済予測よりも確実に当たるのが人口予測である。今後出生率が劇的に改善したとしても、20年間は現役世代の人口が減り続けることは疑いない。一方で、引退した高齢者の数は減らないから、現役世代の人口とそれ以外の人口の比率から考えて、慢性的な労働力不足の時代に向かっていく事になる。もちろん実際にどの程度の労働力不足になるかは景気次第であるが、今後よほどの長期低迷が続かない限り、10年以内には慢性的に労働力が不足する時代が来ると考えておくべきであろう。
労働力が不足すると、現役が介護に忙しくて物づくりに従事出来ないから、物が不足する。物が不足すれば価格が上がる。不足分は輸入するという選択肢もあるが、そうなるとドル高になるので輸入物価が上がる。
サービスの価格は人件費に大きく影響を受けるので、労働力不足で賃金が上昇するとサービスの価格も上昇する。
バブル崩壊以降、労働力が基本的に余っていて失業が問題であった時代には、賃金が上がらずにデフレになったが、今後については頭を大きく切り替えて、人手不足時代が来るという事をしっかりと考慮しなければならないのである。

・最大のイベントリスクは大地震
30年以内に大地震が発生する確率は70%だとも言われている。仮にそうだとすれば、10年以内に発生する確率は10%はあるだろう。大地震によって東京名古屋大阪といった大都市が壊滅的な打撃を受ければ、物価は2倍にはなるだろう。つまり、保守的に見ても、大地震で物価が上がる期待値は10%(年率1%)はあるのである。この部分は、経済予測をする際にはリスクシナリオとして言及するだけで、メインシナリオには考慮しないが、運用をする場合には期待値が重要であるから、この分もインフレリスクとして考慮する必用があるのである。

・国債暴落もイベントリスクとして考慮する必用あり
国債相場が暴落するか否かは、経済予測の問題ではない。市場参加者が暴落すると思えばするし、思わなければしないので、予測は不可能であるが、可能性がある以上、イベントリスクとして期待値を考えておく必用はあろう。
日本国債が暴落するという事は、日本政府が破産すると人々が考える場合であるから、日本銀行券が無価値になる事を人々は恐れ、「日本銀行券を持っているのが嫌だから何でも良いから物に換えたい」という需要が殺到してインフレになるであろう。
また、国債を売った資金は銀行預金や株式投資に向かうはずが無い。政府が破産するのに日本銀行券(および日本銀行券の預かり証としての銀行預金)や日本企業の株式などを持ちたいと思う投資家はいないからである。従って、巨額の円がドルなどの外貨に換えられるはずである。そうなれば、ドルが高騰し、輸入物価が高騰し、国内物価も激しい輸入インフレになるであろう。

・資産運用は、インフレに強いポートフォリオを
こうした事を考えると、資産を全額銀行預金に置いておく事がリスクである事は明らかであろう。日本人は「株やドルはリスクがあるから銀行預金が安心だ」と考える人が多いようだが、「買うもリスク、買わざるもリスク」なのである。本稿の読者は、それを理解しているからこそ株式投資を行なっておられるのだと思うが、改めてインフレのリスクについて再認識をしていただければ幸いである。
ではどうすれば良いのか、というと、人それぞれであろうが、筆者の私見は「おまけ」に示しておくので、御笑覧いただければ幸いである。

以上

(おまけ:筆者の推奨する老後資金の運用方法)
・インフレが脅威なのは老後
現役時代には、インフレはそれほど恐ろしくない。貯金は目減りするかもしれないが、現役世代の金融資産は大した金額ではないし、何よりインフレになれば所得も増えるからである。しかし、退職金を受け取った途端、インフレが重大な脅威になる。そこで、以下で老後資金について考えることとする。

・老後資金を考える際の最大のリスクは長生きとインフレ
インフレのリスクについては既述の通りであるが、今ひとつのリスクである「長生き」についても、しっかり認識していただきたい。平均寿命はあくまで平均であって、将来人口推計を見ると、個々人にとっては、90歳、100歳まで生きる可能性は決して小さくないのである。しかも、医学が長足の進歩を遂げていることを考えると、将来人口推計自体が大幅に修正される可能性も考えておく必要があろう。長生きは、それ自体は望ましい事であるが、老後資金という観点からは、大いなるリスクなのである。

・長生きとインフレのリスクを考える時、頼れるのは公的年金
公的年金は、どれほど長生きをしても受け取れるし、インフレになっても原則としてインフレ分だけ増額される。少子化や低成長により支払原資の枯渇が懸念されるようになれば減額される可能性はあるが、それでも大いに頼りになる事は間違いない。

・将来は年金が受け取れないと思う人は、資産をドルに換えるべき
筆者の意見と異なり、将来は年金が受け取れないと考える読者は、年金を60歳から受け取り、全額をドルに換えるべきである。年金も払えないような国の通貨は暴落するに違いないからである。

・資産は現預金で持たず、株とドルと物価連動国債等に分散投資
現預金はインフレに弱いので、最低必要額にとどめる。資産は株(または株式投信)、外貨(ドルMMF、外国株、または外国株投信)、物価連動国債(2016年秋からは庶民でも買えるようになる見込み)、変動金利型国債などに分散する。その際、株と外貨については時間分散投資も忘れずに。

・高金利通貨、FX、商品先物には手を出さない
高金利通貨が高金利なのは、政府がプロに借金を申し込んで断られたから。仕方なく素人に高金利を払って借金をしているような国には怖くて貸せない。
FX、商品先物は投資ではなく、丁半バクチなので手を出さない。

・詳しいことは、拙著『老後破産しないためのお金の教科書』を見る(笑)。
本稿は上記拙著からの抜粋であるから、詳しいことを知りたい読者は、拙著を御参照いただきたい。

以上

P.S. 本稿は、2015年11月30日に株式会社TIWに寄稿したものを、同社の御了解をいただいて、ここに転載するものです。

 




 


以 上

本稿は筆者個人の見解であり、筆者の属する組織などの見解を示すものではありません。
また、読者に投資などを勧誘するものでもありません。
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