2016年03月31日

久留米大学商学部教授
塚崎 公義

 

国債の利回りは妥当か?


(要旨)
・国債利回りが予想インフレ率以下なのは、日銀の量的緩和により国債需給がタイトであること、ゼロ金利政策が続くと信じられていること、による。
・財政破綻を懸念している投資家が多いにもかかわらず国債のリスク・プレミアムが極小である理由は、@「当分の間は大丈夫だ」と投資家が考えているから、A「政府は徴税権があるから破産しない」と投資家が考えているから、B「最後は日銀が紙幣を印刷して国債を償還する」と投資家が考えているから、等と考えられる。
・日本人投資家の外貨アレルギーが資金を日本国債に向かわせている面も強いと思われる。
・国債暴落は、いつ起きても不思議はないが、起きなくても不思議はない。

(「おまけ」の要旨)
・日本の財政は破綻しない。少子化が進み、日本人が最後の1人になれば、1700兆円の資産を持つ彼(女)が1000兆円(日本政府の借金額)の税金を支払うだけなので、何も問題は生じない。
・日本国債が暴落すれば、外国人投資家が損をして日本政府が儲かるので、財政赤字はむしろ大幅に縮小する。

(はじめに)
本稿は、2015年12月1日に株式会社TIWに寄稿したものを、同社の御了解をいただいて、ここに転載するものです。
寄稿後に金融情勢が激変しており、マイナス金利となっておりますが、金融情勢が落ち着くとの前提でお読みいただければ幸です。

(本文)
・国債の利回りは予想インフレ率以下
国債(10年物)の利回りは、0.3%近辺で推移している。BMI(物価連動国債の相場から逆算した、投資家の予想している今後10年間の物価上昇率)が年率1%程度である事と考え合わせると、異様に低い利回りである。
つまり、投資家たちは、国債を持っているとインフレで資産が目減りすると思っているにもかかわらず、他に適当な投資先が見当たらないので仕方なく国債を保有しているという事である。
その理由は二つある。一つは日銀が金融緩和策として巨額の国債を購入しているため、長期国債の需給が引き締まって価格が上昇(利回りは低下)している事である。しかし、それは主因ではない。仮に日銀が量的緩和を止めて、単なるゼロ金利政策を採るとしても、長期金利の上昇幅は限定的であろう。それは、今後数年間にわたって短期金利がゼロで推移すると予想されるからである。これが第二の理由であり、主因である。
日銀は、インフレ率が2%になる事を目指している。つまり、物価上昇率が1.9%で推移してもゼロ金利政策を続けると宣言しているのである。短期国債を持っていると損をする状態を日銀が意図的に作り出しているのである。
短期国債を満期のたびに乗り換える(事実上の自動継続定期預金)と損が出るなら、長期国債を持っていても損が出るのは当然である。基本的には予想短期金利の平均が長期金利だからである。
「国債を持っていると資産が目減りするから、株式投資や設備投資などをしなさい」という政策は、景気回復には役立つかも知れないが、国債等の投資家にとっては迷惑な話である。

・財政破綻懸念と「国債のリスク・プレミアムが極小」の矛盾?
上記は、国債がリスクフリーの投資対象である場合の議論であるが、実際には日本政府が財政破綻すると懸念している投資家が多いので、国債利回りは高くなるはずである。しかし、リスク・プレミアムは極小である。何故であろうか?おそらく多くの投資家が下記のいずれかを信じて投資をしているからだと考えられる。

・「当分の間は大丈夫だ」と投資家が考えているから
「日銀も買っているし、他の投資家も買っているから、当分の間は国債は暴落しないし日本政府の破綻もないだろう。それならば、今買って、暫く保有していて、適当な時に売れば良い」と考える投資家が買っていると思われる。
これは危険である。まさにバブルそのものだからである。

・「政府は徴税権があるから破産しない」と投資家が考えているから
「日本の消費税率は欧州諸国より低いので、将来は消費税率が大幅に引き上げられて財政が健全化するだろう」と考える投資家も買っていると思われる。これも危険である。「日本政府は増税出来ない」と投資家が考えた途端に国債が暴落しかねないからである。

・「最後は日銀が紙幣を印刷して国債を償還する」と投資家が考えているから
たしかに、最後は日銀が紙幣を印刷するので、国債は必ず償還される。従って、リスク・プレミアムはゼロで良い、とも言える。もっとも、その場合には激しいインフレが予想されるので、投資家たちがその可能性を織り込めば、長期金利が上昇しても不思議ではない。

・日本人の外貨アレルギーが国債購入のエネルギー源という面もある
日本人投資家には、プラザ合意等々によるドル安円高で損をしてきたトラウマが染み付いているため、「外貨投資はリスクが高いから嫌だ」と考える傾向が強い。そうなると、為替リスクの無い投資対象の中で最も安全なのが日本国債であるから、消去法的に日本国債が買われる事になる。そうなると、「他の投資家も消去法的に日本国債を買うだろう」と投資家たちが考えるので、一層安心して国債が購入される、ということになる。

・国債暴落は、いつ起きても不思議はないが、起きなくても不思議はない。
上記は、国債需給を巡る状況がリスクを抱えている事を示唆している。しかし、株価や地価のバブルとは異なり、「いつかは破綻する」と決まったものでもない。株価や地価のバブルは、「価格が高騰し続けないと暴落する」ため、高騰し続けて歪みが拡大していき、いつかは破綻するが、国債需給は歪みが拡大していくわけではないから、現状が100年続く可能性も十分にある。

・筆者のように、財政は破綻しないと考える投資家もいるはず
筆者は、財政は破綻しないと考えている(理由は、下記「おまけ」参照)。そうした投資家の中にも、長期国債に投資している人はいる筈である。
筆者自身は、長期国債はインフレのリスクを考えて買わないが(笑)。

(おまけ:財政は破綻しない・・・超少数説の暴論を御紹介)
・政府は国民から借りていて、外国からは借りていない
日本政府は、外国からの借金ではなく、国民から借金をしているので、問題ない。「父さんは母さんから1000万円借金しているが、母さんは1700万円持っているので、父さんに1000万円貸し出した残りの700万円を銀行に貯金している」という状況である。夫婦喧嘩は絶えないかもしれないが、家計としては何の問題も無いのである。

・日本人が少子化で最後の1人になれば、財政赤字は消える
上記例で、父さんと母さんが死んで子どもが相続すれば、資産と負債は相殺されるので、問題は解決する。同様に、少子化が進んで日本人が最後の1人になれば、家計金融資産残高である1700兆円の資産を持つ彼(女)が1000兆円(日本政府の借金額)の税金を支払うだけなので、何も問題は生じない。
つまり、国の借金は、子どもたちに負担を残す「世代間不公平」なのではなく、遺産が相続できる子と出来ない子の間の「世代内不公平」に過ぎないのである。
実際に日本人が1人になる事はあり得ないが、頭の整理には有益である。要するに、何も問題が起きずに財政赤字が解消される可能性があるという事がわかる。もちろん、残りが数家族になった段階で一家族だけが金持ちで残りが庶民という場合、様々な軋轢が生じるであろうし、そうした軋轢は近々生じるかも知れないが。

・国債暴落で日本政府の財政は健全化する
「日本政府が破綻しそうだ」という噂が広まって日本国債が暴落すると、同時に「政府が破綻するような国の通貨は持っていたくない」ということで、外国人投資家が円をドルに変えて本国に持ち帰る。その過程で、外国人投資家は保有している国債を投げ売りし、暴騰したドルを買い漁って大きな損失を計上することになるが、その分をそっくり儲けるのが日本政府である。
日本政府は莫大な外貨準備のドルを高値で売り、売却代金で暴落した国債を買い戻すことにより、一気に負債が縮小するのである。
破産すると言われると財政が健全化する、という不思議なポジションに日本政府はあるという事である。
過去に破綻した政府は、ドル建ての負債を抱えていた例が殆どである。ドル建ての負債を抱えていると、「政府が破綻する」という噂で外貨高になることで、破綻の確率が増してしまうという悪循環に陥るのであるが、日本政府は逆のポジションなので安心だ、というわけである。

・詳しいことは、拙著『なんだ、そうなのか! 経済入門』を見る(笑)。
本稿は上記拙著からの抜粋であるから、詳しいことを知りたい読者は、拙著を御参照いただきたい。

以上

 




 


以 上

本稿は筆者個人の見解であり、筆者の属する組織などの見解を示すものではありません。
また、読者に投資などを勧誘するものでもありません。
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